偽バンクシー

トイレの神様に会う事は叶わなかったが、この映画館のおかげで、個室トイレは全国のどこの個室トイレだろうが自分だけの空間で、人生において必要不可欠な物だと知るいいきっかけとなった。


僕はトイレを出た後、店員に見せつけるように映画のチラシをくまなくチェックした。

映画の展示物もいくつかあり、その中につい最近見た映画で、実際に使われていたウェディングケーキとタキシードが展示されていて、僕はケーキとタキシードの間に入り、何枚も写真を撮った。


「店内を見学させて頂いて有難う御座いました」僕は店員さんに挨拶をして映画館を後にした。


握手会は12時、13時、14時半からの3部構成となっていて、今の時間的に12時からの部も間に合うが、余裕を持って13時からの部に行くことにして、それまで渋谷を見て周る事にした。


ハチ公の方から見ていこうと思い、来た道をきょろきょろと見ながら歩いた。


「あ、アトムだ」

来るときはなぜか気が付かなかったが、MODIから歩いて左側のガード下にドット絵で描かれた鉄腕アトムが飛んでいるのを発見した。


僕はグラフィックアートを見るのは初めてだったので結構興奮した。


「あの絵はどうやって書いているのだろう」そんな疑問を抱きながら目線を下げると、アトムの下に右向きの矢印を抱えた子供からお爺さんまで様々な人々が壁一面に描かれているアートも発見した。


僕はなんとなくその絵を描いた偽バンクシーが何を伝えようとしているのか考えてみようと思い、しばらく立ち止まって考えた。


例えば「みんなが右と言うなら右に行くという民主主義国家の日本を表している」とか、「その方向以外に道があることを教えられず、搾取され続ける人々を表している」とか、シンプルに「その方向にこの世のすべてを置いてきた誰かのひとつなぎの大秘宝が隠されている」とかそんな所だろうか。


正直何を伝えたいのか分からなかったが、そこがアートの良さなのだろうなと思った。


みんなにそれぞれの捉え方があり、きっとそれぞれの捉え方がすべて正解なのだ。


その絵の反対の壁にも同じ方向に矢印が向いてる太陽だとか、聖母さんが抱いている子供がその方向を指していたりしていたので、大秘宝が隠されているというのが大本命なのだろう。


「偽バンクシーはワンピースの熱狂的なファンである可能性があるな」とか

「本物のバンクシーの事は全く分からないけれど、偽バンクシーとは友達になれるかもしれないな」などと僕はそんな事を思いながらグラフィックアートを楽しんだ。


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