バトルオブタンク

僕は赤タンクトップを無視して、今持てる限界重さでダンベルを持ち上げた。


「じゃあ、始めようか 」

赤タンクはそう言って、僕と同じタイミングで倍くらいの重さのダンベルを持ち上げ、僕と同じ種目を始めている。


「なんだよ、見せつけてきやがって」

赤タンクトップにイラつきながらもとりあえず続けた。


僕はフォームを確認しようと思い、鏡を見ると違和感を感じた。


僕がダンベルを上げると赤タンクのダンベルも同じタイミングで上がり、

僕がダンベルを下げると赤タンクのダンベルも同じタイミングで下がるのだ。


赤タンクが僕の方をチラチラと見ながら、タイミングをわざと合わせている事が分かった。


そして僕がダンベルを床に置くと、赤タンクも床にダンベルを置いた。


「まじでなんなんだよこいつ、そんなに見せつけたいのかよ」

僕は赤タンクに本気でムカついた。


文句を言ってやろうかと思ったが、そんなことにエネルギーを使うのはもったいないと思い、僕はダンベルを置いた後、休憩をほとんどせず、すぐにダンベルを持ち上げて2セット目を開始した。


「早っ」


少し声を漏らしながら慌ててダンベルを持ち上げ、さっき同様に僕と同じリズムで赤タンクも2セット目を始めた。


赤タンクが少し慌てている姿を見て、僕はにやついたが、

2セット目も僕が先にダンベルを下ろし、赤タンクが勝ち誇った顔で目線だけ僕に向けてきた。


「まじで悔しい」


僕はよく分からないが赤タンクにダンベル先に降ろしたら負けというバトルを挑まれていると理解した。


「このバトル受けて立とうじゃねぇか」


今のところの成績は僕の二戦二敗。

負けたままでは終われる訳がない。久々に闘志に火が付いた。


僕は少し休憩をして、3セット目を開始した。

当然赤タンクも同じタイミングで上げてくる。


僕は赤タンクがダンベルの上げ下げの動きに合わせてくるという仕組みを上手く利用して、わざと早く上げたり、逆に遅くしたりとリズムをぐちゃぐちゃにする作戦を取った。

重さにハンデがある分、赤タンクの方が先に限界がくるだろうという魂胆である。


これはずるいと言うかもしれないが、これはルールに乗っ取ったちゃんとした作戦なのだ。ずるいかもしれないが僕はどうしても「どうだ赤タンク、ざまーみろー」と

勝ち誇った顔で言ってやりたいのだ。


僕は勝ちを確信しながら、リズムを変えてる事に集中し、力を振り絞った。



「兄貴、もう無理だ」


残念ながら3セット目も僕が負けてしまった。

僕の胸筋は限界だった。


「まだまだだね。その程度では俺には勝てないよ」

赤タンクがタオルで顔を拭きながらそんな顔しながら微笑んできた。


さっきまでの僕であれば、イラついていただろうが、不思議とイラつかなかった。

僕の脳内は「負けたくない、絶対勝ってやる」という気持ちで溢れ、もはや痛みも感じなくなっていた。


「あの二人同じタイミングでトレーニングして仲いいね」

ジムに誰か居たらそんな風に思われていたかもしれない。


シンクロスイミングや、ダンサーが同じ動きを寸分狂わず披露するかのように、僕たちは呼吸を合わせ、勝負に没頭していった。


途中までは数を数えていたが、その内数えるのを辞めて、もはや何回やったかは覚えていない。


お互いダンベルの重さを徐々に下げて勝負をしていたが、結局僕は一度も赤タンクに勝つことが出来なかった。


だが、不思議と悔しい気持ちはなく、胸筋を盛大に追い込めた達成感と、久々に誰かと魂が燃えるような勝負ができた事に満足していた。



「よく頑張ったな、結構やるじゃん」赤タンクはそんな顔をして僕をみて笑っていた。


「赤タンクもな」という意味を込めて僕も笑顔を返した。


第一印象最悪の男と謎の友情を芽生えさせる事に成功した。

僕は限界を超え、意識が朦朧としている中、時計を見た。


「6時35分か、まだまだ時間に余裕あるな」


僕はゆっくりと立ち上がり、帰る準備をしながら赤タンクとの死闘に思いふけっていると、テレビモニターから耳を疑う声が聞こえてきた。



「7時30分。朝のニュースの時間です」


「ん???」

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