若いライバルたち

MODIの入り口付近にはすでに数人がMODIのオープンを待っていた。


階段に座っていたり、壁に寄りかかりながら携帯をいじっていたり。「早く会いたいね」などと会話している2人組の女性がいたりする。まばらに列を作り、入り口の方を何度も確認している所を見ると、きっと僕と同じ目的で集まった同志たちなのだろう。


同志といえど、当日券を奪い合うライバルでもあるので、馴れ合いは無用だ。

もし先着順なのであれば、せっかく渋谷まで来たのだから、割り込んででも握手会に参加するくらいの意気込みで僕は来ている。


MODIの入り口は4段くらいの階段を下りた所にちょっとした広場のようなスぺースがあり、そのには桜の木と何かの映画の広告展示物がある。同志たちはその周りを囲う様に大まかに分けて2列に並んでいる。


ただ、並んでいるライバルたちを見ていくと想像していたファン層ではない事に気が付いた。というかいくら周りを見渡しても若い女性しか見当たらないのだ。

「うわ、最悪だ。握手会はこうゆうものか?男性がせめて数人いてもいいじゃないかよ」兎にも角にも僕一人男が混じっているというのは場違い感が凄い。


「女性有名人の握手会なのになんで女性しかいないんだよ」

そんな事をぼやいていると、ライバルたちに「この男も来てるの?」とか「こいつ何様?」みたいな目線を向けられ、とにかく気まずい。名付けるなら女地獄だ。


さっきまで割り込んででも握手会に参加してやると意気込んではいたが、

流石に先頭に割り込んで「絶対に握手するからな!」なんて堂々と言い張るという選択肢は僕の中からとうに消えていた。


僕は静かに列から少し離れた階段に腰を下ろし、別に用事はないが携帯をいじってやり過ごす事にした。


こういったイベントを待つ時間さえ経験した事の無い僕はただでさえ落ち着かないのに、女性しかいない世界に急に転生させられ、本来ならハーレムでウハウハなのだろうが、そんな事を考える余裕もないほど平常心を保っている事が難しかった。


早く時間が進めと思えば思うほど時間はゆっくり進み、心臓の音が鳴り響き、周りの音をかき消していた。


そしてその時が来た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る