海外にいく

虹色バック達を車窓の反射越しに見送り、改めて僕は初めて東京に来た事に歓喜していた。

僕は今まで一度も東京に来た事がなかったのだ。


東京は個性を勘違いした奴が馬鹿みたいに群がって、「夢はなんだ」とか「希望持ってます」とか「将来は大物になります」みたいな感じで中身も大した計画もなく、スカしている輩が多いという偏見を僕は持っている。

そんな場所に気軽に行くと自分もそうなってしまうんじゃないかという恐怖を感じていたのだ。

家が田舎で「自然が好きなんだよね」とか「都会は息苦しいじゃん」とか周りの友達に言って、頑なに行くことを避けていたが、正直言うと結構興味はあったし、憧れもあった。

テレビや映画の映像、友達の話を聞いて知識だけを風船のように膨らませ、偏見はあるが、魅力的な街である事は理解していたのだ。

僕は関東ではあるが田舎に住んでいて、東京はどちらかと言えば近い。

でも僕にとって東京とはほぼ海外みたいなものなのだ。


東京は駅のホームがまず地元と比べると圧倒的に違う。

地元の駅は錆が丸裸の柱が続き、電車は1時間に数本、エスカレーターがない。

それに比べ、渋谷駅のホームはまるで駅のあばら骨を下から見上げているかのような設計で、湾曲した骨組みが綺麗に天井に敷き詰められ、転落防止用の柵が狂いなくずらっと並んでいる。電車は綺麗な黄色で電車が10分の間に2本くらい着たりするらしい。


そして何より人が多い。地元の最寄り駅ですら人が多いと感じる僕の感覚では東京はもう言葉で表す事が出来ないほど多い。

夢を追い求める人々がまず目指す場所はここなんだろうなと駅のホームだけで感じるというのはさすが東京と言うべきか。開いた口が塞がらなかった。

「やるじゃん東京」僕は転落防止用の柵にグータッチをした。

銀座線から目的のイベント会場まで行くにはハチ公前という出口から外に出て、歩いて向かわなければならない。ホームを出て連絡通路を歩いていると右手側の窓から僕でもよく知る有名なスクランブルエッグのような名前の交差点が見える。

「これが噂の交差点か、人がゴミのようだな」ムスカ大佐の真似をして交差点を歩く人を上から見下ろしながらふざけ、まるで天空の城を見つけたくらい心が浮かれている。


僕は事前に駅構内の地図、目的地までの最短ルートを調べていた事もあり、迷うことなくハチ公前の出口から外に出る事に成功した。


「迷うかと思ってたけど以外と東京余裕じゃん」なんて思いながら出口を出たはいいが、「よく来たな」とハチ公が出口の目の前で出迎えてくれるものとばかり思っていたので、出てすぐ見える所にハチ公がいない事に焦り、急に海外で迷子になった。

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