早朝のジャック

ジャックに化けた宇宙人にナイフで刺され、現実の世界に呼び戻された。


僕は目が覚めたのか死んでしまったのかをしばらく判断できず、

ぼーっと目を開けたり閉じたりを繰り返していた。


秘密の組織の一員になれた事は嬉しかったが、

あっけなすぎる終わり方で、もう少し見ていたかった。

総じて楽しい夢だった事は確かだったと思う。


終わり良ければすべて良しと言うけれど、終わり悪くてもすべて悪しではないみたいだななんて考えたりしていた。


「ただ現実の僕にとって東京は守るほどじゃあないんだよな」

そんなことを思いながら、窓際で丸くなって静かに寝ている猫に、眉間にしわを寄せながら少し強い目線を浴びせた。


布団から身体を起き上げ、時計の方へ顔を向ける。


「まだ4時かよー」


〈バタンッ〉

倒れるように布団に舞い戻ったが、また寝れる気はしなかった。


少し前まで睡眠の質が悪い事が原因で体調を崩しがちになり、ここ最近いわゆる早寝早起きを続けている。


完璧な7時間睡眠と完璧な健康習慣。

タバコも辞め、友達との誘いを断ってまで続けて、睡眠の質や体調は抜群によくなっていた。


だが昨晩は寝つきも悪い上に、睡眠時間も短い。

そして何より、よく知る友人に胸を刺し殺されるという始末。

僕は相当浮かれているのだろうか。


『どんな状況でもすぐ眠れます』

戦争中でも3秒で寝れるという方法を試したりもした。

だが、遠足前日に楽しみで寝れない小学生のように、目を閉じると瞼の裏に今日行く場所の映像が想像の中で映し出されてしまう。

そこは闇の中で光り輝いていて、夢より夢のようなものを見れた気がした。


「よしっ、もうジムに行こう」

寝る事を諦めて布団をたたんで猫を起こさないようカーテンを開けた。


普段6時頃にカーテンを開けると、隣の家の屋根に小鳥がいたりして、

ちゅんちゅんと言ってくれたりするのだが、今日はまだいなかった。


早朝は結構好きだ。いわゆる朝方人間という奴で、

澄んだ空気、少し肌寒い気温、まだ完璧じゃない明るさと、

これから明るくなることを教えてくれる下の方が青掛かった黒い空。

まだ未完成な所が「僕に似ているな」とかカッコつけてるだけなのかもしれないけれど。


毎朝ジムにいくというのが今の日課になっていた。

今日も例外ではない。睡眠はしっかりとれなかったが逆に時間に余裕があるので気合いはかなり入っている。


いつものようにインスタントコーヒーを淹れ、ジムに行く前のエネルギーを身体にぶち込んで、テレビを付けた。


前日まで大雨の予報だったのに、今日の予報では曇りのち晴れになっていた。


「ジェイソンJrが最後いなくなってくれたおかげかな」


あのおバカ紳士も少しは役に立ってくれたので

歯ブラシを口に銜えながら、ジェイソンJrを思い出しながら手を合わせた。


ジムの準備を一通り終え、家を出ようとしたとき、


「ニャー、ニャー」


いつもは撫でろ撫でろと近くを離れない猫が、今日は少し離れたところにいる。


「いってらっしゃいニャー」

「あとごめんニャー」


そう言ってくれている気がして、少しだけ複雑な気持ちになった。


「またあとでな、ジャック」


そう猫に告げて扉を開け、振り返らずに扉をしめた。


外は明るくなり始め、今日という日のスタートを教えてくれている気がした。

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