第53話 勝率ゼロ

「来たね」


尖った岩の上にLLINNはしゃがんで待っていると二人の少女の姿が森の中から姿を現す。

LLINNは体を前に向けて重力に従って岩肌の地面へと落ちていき一回転したあとスタッと軽く着地した。


「あれ? もしかしなくてもリーン?」


アヤ達は立ち止まり、リンゴが素っ気なく彼女の名前を答える。

ちなみ他のプレイヤーからはLLINNリンと呼ばれているが、リンゴは名前がごちゃるという理由でリーンと伸ばしを入れて区別している。

LLINN本人もそこまで気にしていない。


「やほー、そっちも略奪してる系?」


「してるしてる」


物騒な会話だがゲームなので無問題。現実だったらちょっと署まで来てもらえるかなレベルである。


「どのくらい食材稼いだ?」


「うーん、秘密で」


「なるほど。ざっと200以上食材がある」


「いや~偽魔女相手に隠し通せると思ってなかったけどさ。わざとでもいいから最初くらい大袈裟に言おうよ」


「ん、じゃ1兆ほど持ってる?」


「アイテム保有上限超え過ぎだつうの」


「……あのリンさん、でよろしいですか?」


LLINNは殲滅姫の方に視線を移して頷く。


「いいよ。その代わり勝手に殲滅姫と呼ばせてもらうけどね」


「あ、はい。もうそれでいいです」


だんだん殲滅姫のあだ名が定着していて、そう呼ばれても別にいいやと思い始めるアヤであった。


「そんじゃ三人女子だし、一緒にお茶でもしない?」


「む、時間稼ぎなら無理な相談。あと嘘と本心3:7あたり」


「正確すぎで脳内に嘘発見器を埋め込んでるんじゃないかと思うわ。ていうかバレバレで萎えるわ~」


「そろそろ戦う?」


「あーはいはい。いつでも掛かってこい」


気怠げに指先を上下に動かす。

アヤは一歩前に出て攻撃を仕掛けようとするがリンゴが手で塞いでアヤの歩めを止める。


「リンゴ、戦わないの?」


「戦う。けど迂闊に進んだら何かある」


リンゴはアイテム欄から包帯で巻かれたボールを取り出して、ひょいと投げる。


「させるかっての」


LLINNはアイテムのナイフを投げて正確にボールに当てる。が、ナイフの空いた穴から紫の煙が吹き出して、一瞬で周囲に煙が広がった。


「なっ、あのクソ偽魔女」


煙玉で視界が奪われた。一応マーキング効果は消したが相手が何をしてくるか分からない。

それに……


「殲滅姫のスキルくらったら即死なんだけど」


いつくるか分からない即死攻撃が何よりも恐ろしい。それに偽魔女の戦法に嵌れば確実に勝算がゼロになる。


「仕方ない。スキル『奈落の白夜』」


LLINNは出し惜しみせず固有スキルを使った。

辺りが真っ黒に染まり、夜が訪れたかのように視界は暗闇一色に包まれる。


「強制暗闇効果はいかが?」


自身を中心に半径50メートルほどの真っ黒なフィールドを1分間展開する。その暗闇に足を踏み入れた瞬間、耐性ありでも必ず暗闇効果にする正直使いどころを選ぶスキルだ。

だが、暗闇状態を打ち消しても即暗闇状態になるという絶対相手を暗闇にするマンの意思がこのスキルにはある……なぜだろう。

煙が少しずつ晴れてアヤ達がお互い背を預けてどこから来るか、構えていた。


「あらら。可愛らしいことしてるじゃない」


LLINNは足音を立てずにアヤ達に忍び寄り、二人を鑑賞するように回る。


(うん、近くで見るとやっぱり可愛い造形してるわ。というかどうやったらこんなに可愛く作れるの?)


中身プロクリエイターなんじゃないのと思うくらい精巧に作られてる。もし何も弄ってないアバターって言われたらリアルの顔どうなってるのかマジで気になるわ。


(ごめんなさいね。これもゲームだから)


赤い短剣を構えて、スキルを唱える。


「スキル『死の宣告』」


アヤとリンゴの頭目掛けて振る。虚ろな目をしたアヤ達はグサリと額に刺さり、グダリと地面に倒れ込む。

しかし次の瞬間、アヤ達は黒いモヤとなって消えてキル判定が出なかった。


「……っ!?」


偽物だったと気がついた時には手遅れだった。


「スキル『鮮血の刃』」


頭上からリンゴの声が近づいて頭から脇腹までLLINNを斬り裂いた。すかさずLLINNは攻撃に転じようと短剣を構えるが。


「アヤ! ここ!」


岩影からアヤが飛び出して声のする方向にスキルを打ち込んだ。


「スキル『メテオストライク』!」


衝撃波が向かってきてLLINNは負けると確信した瞬間、リンゴの腕を握り締める。


「スキル『自爆』」


「……!」


LLINNの体が閃光に輝き、轟音と共にリンゴは光に包まれた。

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