音声データ 笹川綾香の取材
※生存報告です。
一応、本編に関係してはいます。
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20XX年6月16日
超人気アイドル高校一年生、笹川綾香の取材内容 一部音声データの不具合により没
途中から再生しますか?『はい』 いいえ
『はい』が選択されましたので再生します。
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取材とおもしきメガネの男性と一人の少女がお互い向き合って話し合いをしていた。
「ずばり笹川さんの趣味は何ですか?」
「趣味ですか。そうですね。ダンスのレッスンと歌の発声練習でしょうか」
「そうなんですか。前にアンケートで書いたあれって仕事のためにやっているのかと」
「そうですよ。いい仕事をするためにやっています」
「それ趣味じゃなくないですか?」
「え?」
「え?」
10秒間沈黙が続き、男性が僅かに顔を引きつらせながらも営業スマイルで話を進める。
「し、失礼。笹川さんにとって仕事は趣味みたいなものなんですよね」
「そ、そうです! 仕事は趣味みたいなもので気楽にやれる、そんな感じがするんですよね」
「それは凄いですね。笹川さんみたいな超人気アイドルだと仕事量は結構ハードな感じがするんですが、笹川さんは楽しく仕事をこなしてるんですね」
「そうですね。大変なのは確かですが私が頑張らないといけないので、皆んなのために頑張ってます」
「やっぱりご家族のためですか?」
「それもあります」
「他にはどんな人がいますか?」
「前任のマネージャーと知り合いにですね。どうしても伝えたいことがいっぱいあるので」
「いいですね。時間が許すなら今からでも会いに行きたい、そんな感じなんですね」
「………………そうですね。会いたいです」
「ところで笹川さんは猫が好きだと伺ったのですが本当ですか?」
「はい、好きですよ。頭を撫でてゴロゴロしてるところが可愛くてつい撫でまくっちゃいます」
「ちなみに猫カフェに行かれたりしますか?」
「取材のときなら行きますが今は忙しいので行けないです」
「すみません。申し訳ないことを」
「いえいえ、忙しい方が私としては嬉しい限りです。だって余計なこと考えなくていいですから」
「は、はあ。えーと、笹川さんは現役高校一年生ですが成績とか大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
「なんか不穏な感じですね」
「だ、大丈夫です! 中間試験は平均点を取っています! 赤点用紙は中学校時代に捨ててきました!」
「……中学校時代は赤点だったんですね」
「…………はい」
また沈黙が続き、男性は怪訝な顔つきで話を続ける。
「さ、笹川さんのパフォーマンスはやはりダンスと歌唱力にあると思いますが、その秘訣はなんですか?」
「時間が空いたらレッスンあるのみですね。ひたすらレッスンして、何度も何度も周りが見えなくなるくらい努力するだけです」
「す、凄いですね。僕だったら絶対に無理な気がします」
「人ってやろうと思えば何だって出来るんです。たとえ傷ついても失っても希望がなくてもやると決めたからには何がなんでもやり通すのが人だと思います」
「……笹川さん」
「なんですか?」
「笹川さんは▉█▊█▄▋▃
ここから先はエラーにより再生出来なかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「昔の笹川は
ひとつのデスクワークに照明が照らされて、後任の虎川は椅子にもたれかかってボヤいた。
「あーくそ。この仕事やってらんないわ」
カノラーヌ事務所で一番売れてるから仕事量がえげつない。前の奴はこれを笑顔で乗り切ったって絶対嘘だろ。
「あー寝よう、よし寝よう、寝るぞコラ」
私は机に突っ伏して紙束を枕替わりに瞼を閉じるが……
「マネージャー、寝たら私が死ぬんで起きて下さい」
横目で見ると制服姿の笹川が眉をひそめて私を見ていた。
「笹川がなんでここにいるんだよ」
「誰かさんが仕事サボってないか確認してこいと編集長に言われて来たんですよ」
「それは律儀なことで。こっちは寝る間も惜しんで頑張ってますわ」
「仕事ほったらかしてスイーツ食べに行ってたって知人から聞きましたよ」
「ああん? 私が何しようが勝手だろうが」
「私のスケジュールがぐちゃぐちゃにならなければ言いませんでしたよ。今までマネージャーのせいで倍以上苦労してたことを思うと文句の一つや二つ言いたいものです」
笹川は横のデスクワークに座り、山のように積まれた紙束を半分にして一枚一枚書いていく。
「高校二年生が大人の仕事とっていいのか?」
「私のことなんでとってもいいでしょう。どうせあとから悪い予定変更で、が目に見えてますから」
「高校生のくせに生意気だ」
「生意気で結構です。あーほら、これ明日に提出しないと取引会社に土下座する羽目になりますよ」
まったくと言わんばかりにため息をついて着々と終わらせていく。その姿は天使……いや、必殺仕事人のような大人びた女性であった。
「笹川は高校生かって思わないくらい大人びてるよな」
笹川は物言いたげな顔で低い声色で口にした。
「誰のせいでこうなったと思います?」
「あーはいはい、私のせいですよ。つうか手を動かすの早いな」
「編集長はこれの三倍速度でやってのけるそうですよ」
「編集長は異次元だっつうの。異能生命体かなにかだっつうの」
「マネージャーが遅いだけです。あ、これもあれもそれも! 明日に覚醒でもするつもりだったんですか!?」
手をあたふたさせつつも必死にペンを走らせる。私はその姿にフッと笑う。
「何笑ってるんですか? 蹴飛ばしますよ?」
「いや悪い悪い。ところで笹川はいま趣味があったりするか?」
笹川はジト目でコイツの脳内どうなってるのと冷ややかな目で見てくる。
「いいだろ別に。答えてくれよ」
「……そうですね。異世界に行くことですかね」
「え、笹川って異世界に行きたいラノベ厨二病患者だったの?」
「違いますよ。というか私はラノベとか読む暇ありませんよ」
「じゃあなんだよ。異世界行くって」
「そういう世界があるんですよ。誤解がないように補足しますが、一般的にある健全な世界です」
「ふーん」
「なんですか、その顔。私が現実見れない痛い子だと思ってます?」
「そうじゃない。笹川がこんなふうに変わって私は嬉しいだけだ」
「それ痛い子認定してるじゃないですか」
笹川のみせる表情はどれも感情豊かで見てきて飽きない。つい困らせて彼女の一挙手一投足の全ての表情を見たいのは仕方ないことだ。
「あ、しまった。今日中に企画書出さなきゃ私終わるわ」
「そうなんですか。ご愁傷さまです」
「そこは私も手伝いますだろ?」
「高校生が大人の仕事手伝ってる時点で異常だと思ってください。あと無理に押し付けるならパワハラで訴えます」
「ひでぇ、まぁ私なりに頑張るか」
「頑張ってください。あとスイーツ奢ってください」
「コンビニプリンで勘弁してくれ」
日が沈み少し涼し気なクーラーに当てられながら頑張る二人の姿はサボり上手な先輩と真面目に仕事に取り組む後輩のような雰囲気であった。
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