第42話 勘と実力
◇◇◇◇
「私より強い」と勘が告げてくる。あの時とは違う……彼女は十分に強くなっていた。
「ん! そこ!」
勘でスミレの表情と動きを読み、天才頭脳で計算して、スミレの動作を予測、いうなれば未来予知。
スミレが避ける軌道を先読みしてそこに短剣を突きつける。
「甘い!」
しかし、スミレは常人を遥かに凌ぐスピードで短剣を刀で弾いた。
「むぅ!」
人間じゃない。私の勘を凌ぐ強者はほとんどいないのに、スミレは常人離れした
でもそれがかえって世界が広いことに驚かされて、つい口元が緩んでしまう。
「
普通、斬撃の雨の中で、私にポーカーフェイスを強要してくる?
「最近、勘を上回る者、反応しない者が現れて、脳が処理し切れない」
「ほう! それはどのような者か知りたいな!」
知ってくるくせに。その笑顔が憎たらしい。
「スキル『烈火の渦潮』」
範囲が広く、周囲に継続ダメージと直撃したら大ダメージをくらう
「それで凌げるとでも思うか、偽魔女! スキル『断罪一刀』!」
遠距離スキルを真っ二つに斬る
「あ、もう! 作戦立てなきゃなのに!」
MPが残り半分を切った。
「スキル『盲目の黒霧』! あんどスキル『武器交換』!」
もう逃げることが不可能。ならなりふり構ってやるしかない。
「スキル『
腹の奥が熱く、全身の血管にマグマが流れているような感覚……私の固有スキルが発動した合図だ。
「やっと本気になったようだな」
スミレの気迫がより一層高まり、睨みつけられたら気圧されることだ。それもそのはずリンゴの固有スキルは強いと認めた相手にしか使わない。
FFO内でのリンゴの噂は良くも悪くも強いと有名であり、その強者が本気になるということは同等の実力があるということだ。
「堅物侍、もう十分強い」
「ほう。それはもったいない賞賛の言葉だな。その言葉が本当なら是非受け取りたいものだ」
「ほんとほんと。私、嘘つかない」
「なら見た目を斥候にするんだな。それで魔導士と思い込んで騙された人間が何人いると思ってる」
「
「ならあのとき言った嘘もノーカウントか?」
リンゴはピクっと動きを止めて、静かにタガーを構えた。
「それは……本気の私に勝ってから教える」
「ならば俄然やる気が湧いてくるな!」
刀身に反射して私が映り、次は貴様だと血気盛んに示してくる。
「血に飢えた獣」
私のもてる武器、装備、アイテム、スキル全て使って。
「はぁあああ!」
速くしなやかに一撃一撃に力を込めて曲線美をえがく。
スミレは何度も受け止めるが威力が桁違いに上がって一歩また一歩と後退する。
「くぅ! さすが貴様の固有スキルだ」
スミレがそういうのも無理はない。
リンゴの固有スキルは様々な効果が付与されているのだ。発動後、666秒の間は状態異常無効、四属性無効、超再生、吸血、
ダメージを受けてもすぐに超再生でHPを回復し、自身が相手にダメージを与えれば吸血で与えたダメージの5%のHPとMPを奪うことが出来る。
また、固有スキルは解除されてしまうが死んでも自己蘇生で一度だけHPを半分回復して復活することが出来る。
まさに不死者そのものなのだが弱点もあった。
火属性被ダメ5倍、アンデット特攻被ダメ10倍にまたその属性で倒された場合、自己蘇生が発動しない。固有スキル以外でのスキルとアイテムでの回復は不可、途中で固有スキルの解除不可。
また、リチャージ時間も6666秒と長く、様々なデメリットもある。
しかし、結果的にメリットの方が大きいことに変わりないのだが、スミレとの戦闘では逆に不利になる可能性がある。なぜならスミレの固有スキルがリンゴの固有スキルでは相性最悪なのだ。
だが、それでも使わなければ勝てないとリンゴの勘が判断したのだった。
「スキル『神速』あんどスキル『怪力の鼓動』あんどスキル『麻痺の毒瓶』あんど『鮮血の刃』」
スキルの大盤振る舞い。スキルの多重発動はMP消費が激しいけど、この魔女帽子──〈
「スキル『断罪一刀』」
私は止まり、スミレの剣筋が胸スレスレを通る。アヤだったら確実に半分に斬られて四つ大きいマシュマロにされてた。
……当たり判定が小さくなるのは嬉しいけど、なんか悲しい。
「一発め!」
リンゴはスミレの脇腹を素早く斬りつける。スミレの反射神経が追いつけないほど見事な一撃だ。
……胸がないと気付かされた私怨も入っているが。
「ならば!」
スミレは右足を軸に刀で円を描く。が、リンゴはすでに間合いの外に退いて、次の攻撃の準備をしていた。
「スキル『鈍足の足枷』あんどスキル『毒牙ナイフ』」
脚を斬りつけながら横を通ってスミレに状態異常をかけていく。
じわじわとスミレのHPと動きが鈍くなっていき、いわゆる陰湿戦法をリンゴは躊躇なく使う。武士道精神を重んじるスミレにとって、道場を土足で踏んだ礼儀知らず者に映ってもおかしくなかった。
「ん、あとはじっくり待つだけ」
リンゴは遠く離れて獲物が弱るのを待つ狩人の目つきになる。
「は、相変わらずだな」
スミレは刀を鞘に収めて吐息をつく。
「堅物侍は固有スキルは、私の天敵だから」
「偽魔女を斬るためのスキルと思えば間違えではないな」
「私をキルするための斬るスキル捨てて」
「捨てること出来ないし、あとダジャレはクソ寒いしダサい」
「むむ! 私のダジャレを侮辱した罪、万死に値する!」
「それで殺されるのは勘弁願いたいな。だが、お前も道連れにできるなら喜んでするが」
「地獄の果てまで逝ってGOするのは勘弁」
「地獄は貴様だけで逝ってこい」
「酷い、最低、冷酷、堅物侍!」
「貴様が言うか。さて、そろそろ話を切り上げて仕掛けさせてもらおう」
スミレは柄に手を置いて一点に刀に意識をおく。
「もしかしてそこから当てる気?」
スミレとの距離はだいぶ離れている。たとえるなら神戸高速鉄道南北線の半分ほどだ。
その距離ならスミレの固有スキルの十分範囲外である。距離をつめられても固有スキルを発動しているリンゴなら範囲から逃れることが可能だ。
「当てる。これは決定事項だ」
「な。私の名台詞パクられた」
「え、名台詞とな? 迷う方のではなく? さすが偽魔女の考えることだ」
「むむ……安価な挑発に乗るとでも?」
「……なんだバレてたか。やっぱりこういう手合いは苦手だ」
「ん、それがいい。堅物侍は堅物侍の戦術で戦う方が、私としてはやりにくい」
スミレは小さく微笑んでこう告げる。
「そうか。それなら私のやり方で貴様を倒すとしよう」
途端、スミレの雰囲気がガラリと変わる。
殺気のような冷気がリンゴの肌に触れて、突然に勘が告げる「避けろ」と。
「スキル『
雷が鳴った轟音が響き、スミレの刀が
範囲外のはずのスキルに頭が真っ白になって呆然とした一瞬の隙に白金に輝く鞭がリンゴの目と鼻の先まで迫った。
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