第43話 約束
刹那の一太刀───武器の耐久値(だけど不壊の効果は無効)を全て消費して相手に耐久値分の倍ダメージと相手の良い効果を打ち切る、端的に言うと効果の打ち消し。
しかもリチャがないから武器さえあれば何度でも固有スキルを発動し放題。ほんと私との相性最悪。
「くっ!」
無理やり思考を回避に塗り替える。
帽子のとんがり部分がジリっと焼ける音がして、刀ビームが頭上を通った。アバター本体じゃないから当たり判定にならなくて助かった。あ、でも回避に専念したせいで地面に……げふ!
「……あれ大丈夫?」
「FFOは落下ダメージあるから多少ダメージ入ってると思うぞ」
観客席で優雅にティータイムを決めるアヤとノワールはリンゴ達のPvPが終わるのをまだかまだかと待ち続けている。
…………いや、大量に並ぶケーキと珈琲をご機嫌な表情で飲み食べしているため違うかもしれない。
「固有スキルであんなビーム撃てたんだ」
「いいや、確か効果の打ち消しっうスキルで、強力な分、範囲が狭くて武器交換が必要なはず……なんだけどなぁ」
ノワールの視線の先にスミレの姿があった。
ビームに亀裂が走り、砂岩のように砕けて消えていく……しかし次の瞬間、スミレの手に同じ紫黒刀がぎらりと妖しく輝いた。
「あーなるほど。あの武器なら合点がいくな」
全てを理解した宇宙ノワールは顎に手を当てて僅かに口角を上げた。
何も知らないアヤは小骨が喉に刺さるくらいに気になってノワールに疑問をぶつける。
「あの武器ってなんですか?」
「天魔・無刀っうMPの消費した分によってSTRと耐久値が変わるネタ武器だ」
ノワールはある程度要約して説明する。
天魔・無刀────あるクエストの報酬として受け取れる武器。MPさえあれば無限に刀を強化して生み出せるロマンある武器として、多くのプレイヤーはその武器を手に入れようとした。しかし、難易度が超激ムズのクエストでソロ限定。苦労のすえ手に入れてみれば武器スロットなし、追加スロットがつけれない、おまけにMP依存の武器でSTRしか上がらない。
INTならMPが高い魔導士との相性が抜群で最強の武器として名を馳せていただろうが、今ではどこでもひのき棒、無限ゴミ、鞭刀、千本刀(笑)、刀狩りできない侍……不名誉しかないネタ武器と化してしまった。
「と、くそざこ爪楊枝くんは誰にも使われずインベントリの奥に姿を消したのだった。おしまい」
「……あの、ビームの説明は?」
「ただしビームは刀から出る。以上」
「ノワールさん、ケーキ二つどうですか?」
「イチゴたっぷりショートケーキと濃厚ティラミスで」
アヤはインベントリからその二つを取り出してノワールに渡す。
「んとな。あの武器は自分から半径1m範囲ならどこでも生成できるんよ。ようは手に持ちたいならそこに意識すれば刀が生成される」
「ビームの説明になってますか?」
「話はここからだ。あの武器には変わった仕様があってな。まぁ元から変わり過ぎてるが、さらに珍武器に仕立て上げてんのよ」
「それで?」
「分かった分かった。そんな睨まなくともすぐ説明するよ。まぁなんていうか、生成した刀にさらにそこに生成するとどうなると思う?」
アヤは頭を捻らせて考え込む。
「分かりません」
「重なってバグらないようにシステムが少し離れた位置に指定して生成されるんだ。そうなると剣の上に剣、剣の上に剣、とどんどん上に伸びて剣のタワーみたいになる。つまるところスミレは固有スキルで弱点だった範囲を克服したってわけだ。今のスミレならステージのどこにいても射程範囲だぜ」
全て射程範囲ということはリンゴは息付く間もなく攻撃されるということ。スミレとは相性最悪の上に効果を打ち消されてしまえば、リンゴの勝利が遠のいてしまう。
「ん!?」
息付く間もなくスミレが斬撃の嵐を仕掛けてくる。リンゴなら回避するのは容易だが、それは思考の妨げになる要因にもなった。
「スキル『刹那の一太刀』!」
斬られれば効果を打ち消される。悪い効果は打ち消してくれないから、弱点オンパレード吸血鬼になる。
「ん! な、まっ!」
早い。何もかも行動が早い。避けたと思ったらもう次の攻撃がとんでくる。これじゃ作戦考えれない。
「どうした! こないのか!」
スミレの顔はどこか楽しげに笑っている。なにこの侍。戦闘こそ快楽みたいな……戦闘狂?
もちろん言葉にはしていない。
リンゴの心の中での呟きだが、もし言葉にしたら確実に特大ブーメランが飛んでくること間違いない。
「もう! ちょっと考えさせて!」
「それをしたら負けるから絶対しない!」
リンゴは打開策を考えるが脳のCPUがどうしてもスミレの攻撃にほとんどもっていかれる。が、全てではない。勘と思考の両方を少しずつ思考を巡らせる。するとある違和感に気づいた。
(MP多すぎない?)
リンゴはスミレの持っている武器を知っていた。天魔・無刀……MP消費で刀を生成する武器。最低でもMP1必要、そして刀の長さは38寸。細かい計算は今は無理だから約1mと仮定して200mの距離に必要な本数は約200本。
そこから他スキルのMP消費をプラスして……
「やはり思考に回したな、偽魔女」
リンゴが気づいた時には彼女は既に目と鼻の先まで近づいて刀を振り下ろしていた。
「スキル『刹那の一太刀』」
回避不可、防御も間に合わない。なるほどスミレは、私に思考を意識させるために、わざと攻撃の手を緩めなかった。そして隙をついて変わり身の霊体で透明になって、私に近づいた。
見事としか言いようがない。
でも…………疑問が残る。
スミレのMP問題。侍の
考えろ。思考を加速させろ。私の頭脳は最強なんだから。
残り数秒の中、リンゴはダガーを上に投げつける。直後、左肩から右脇腹にかけて赤いエフェクトが飛び散りながら斬られた。
しかし、リンゴのHPはゼロにならずに半分ほどに留まった。彼女は気づいたのだ。スミレのMPは多いのではなく、この時のためにMPを全部使ったのだ。リンゴの固有スキルさえ解除すれば、あとは何とかなると思って。
『効果が解除されました』
私の頭の中にアナウンスが響いてくる。ま、そんなことはどうでもいい。
「な!? 貴様、何をする!?」
リンゴはスミレに抱きついて離さないように手をがっちり握りしめる。
「は、離せ! こ、この!」
顔をやや赤らめながら柄頭でリンゴを叩く。
だが、リンゴは一向に離さない。
「堅物侍、強くなった。もう誰にも負けないくらい」
「……嘘ついて騙そうとしているのか?」
リンゴは首を横に振って声に出す。
「嘘じゃない。これ決定事項。だからお願い、信じて」
リンゴの瞳は蒼白に透き通って輝いている。嘘偽りない瞳にスミレは刀を下げた。
「……強くなっただろう」
「ん、もう私と対等だよ。だから心配はもうしない」
「心配、か。貴様もカヤック殿と同じだったのか」
「ん。カヤックと一緒にいつも悩んでた。けど、こうして一人でゲームできてる。だから……スミレに二度とちょっかいかけないと約束する」
「……! それは違う! 私がやっていたことだ! どうしても……どうしても…………」
スミレは言葉にすることが出来なかった。
あと一歩のところで口からその言葉が出ない。
「スミレ、一つだけ言っておきたいことがある」
「な、なんだ」
「約束はまた今度に」
「それはどういう……」
リンゴは顔を横にずらすとダガーがブーメランのように回ってスミレの額に突き刺さった。
スミレのHPは一気に減り、パリンと割れて周囲に花火が打ち上がった。
『勝者:リンゴールド様。これにてPvPを終えます』
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