第38話 打倒クトゥルフ同窓会
「は、はぁ、凄いですね」
アヤはこわばった顔になりつつもシャーロンをじっーと見て話しかける。
「そうでしょそうでしょ。FFOに人生懸けてると言っても過言じゃない。それにそれに! 同期達とイベントを一緒にやるのが何よりも楽しい! けど最近は他に気になることがあるんだ」
シャーロンは私の方を見ると企んだ顔で口にする。
「殲滅姫アヤ。あなたは女性プレイヤーの中でダントツに人気のあるプレイヤーだと聞いたのです。そう、この私と並ぶほどに!」
燃え滾る炎のようにオーラが渦巻いてアヤは一歩たじろいた。シャーロンから感じるその熱量はドン引きしても別に不思議ではない。
「そこで思ったのが私とあなたが戦ってどちらが強いか白黒はっきりつければいい画が撮れると思うのですよ。もちろんあなたの許可なく勝手に配信で名前を使ったりしないよ」
「え? いや、え?」
「YesYes。画です」
「驚いて出た言葉ですよ」
シャーロンはわざとらしく自分の頭を軽くコツンと叩いて、あざとく小さな舌を出す。
「HAHA! これは一本取られちゃいました!」
「一文字だけで一本取れたことに驚きです」
「鋭いツッコミいいね。ま、雑談はこの辺にして殲滅姫のアヤ、配信に名前使っていいですか?」
「……」
なんだろう。配信に出るとかどうとかじゃなくて、ハイテンションすぎて話の理解が追いつかない。こーう、陽キャ達の会話の洗濯機にもみくちゃにされた気分。
「あの、宣戦布告ってシャーロンさんが私にPvPを申し込むんですよね」
「あ、私の本音が先走っちゃったね。あなたと戦いたいのは事実だけど、私はクトゥルフ同窓会の皆んなと一緒に戦いたいんだ。つまりクトゥルフ同窓会と妖精の箱庭で戦いたい。ああ、普通に戦ったら私達が勝つと思うからそれだとつまらない」
アヤは胸にチクッと何かが突っかかった。すると背後から敵視するような視線を感じて後ろを向く。
リンゴ、カヤック、スミレの背景に轟音が響いていて、いつでも戦闘できるように武器に手をかけていた。
一人だけ敵視ではなく、尊敬、或いは崇拝するような輝いた瞳でシャーロンを見つめていた。
「シャーロン様、すてき♡」
「イノン?」
こんな感じの人達を私は何度も見たことがある。そうこれは……
「イノン、もしかしてシャーロンのファン?」
イノンはくるりと視線をアヤを視界に捉え、無邪気な子供のようにはしゃぎだして早口で語り出す。
「ええ! 神レベルで推してるわ! 本当は私なんかがシャーロン様の名前を口にするものおこがましいからいつもあの御方って言ってるけどやっぱり神の存在がこんな近くまでいるなんて幸せすぎて倒れそうでもよくよく考えたら私達に会いに来たってことよねそれってつまり気にかけてくれてるってことだから実質的に好きよねなら今すぐにこ」
「イノン、ストップ」
リンゴがイノンの口を塞ぎ、目を細めてシャーロンをじっーと見る。
「で、本当は何しに来た?」
「Oh! あなたは
「ファンじゃない。それにあなたには興味ない」
「なるほどなるほど。それって私以外に誰か興味のある人がいるってことね!」
偽魔女はチラッとアヤを見たあとシャーロンに視線を移してジト目で見る。
「話を逸らさないで。本当は何しに来たの?」
「言いましたよ? 私は皆んなと一緒に戦って殲滅姫アヤ所属の妖精の箱庭を打破し、いい画を撮りたいんだ」
「それなら妖精の箱庭以外でもできる。一位プレイヤーが所属するクランと戦う方が、よっぽど動画映えする」
「確かにそうね」
「……こう言えばいい? いまプレイヤーからものすごく注目されてるアヤ、ライジン、ツルに嫉妬してる。あなたは注目されたい、でもライジン、ツル所属のグリフォン騎士団に勝てる見込みがない。でも妖精の箱庭になら勝てる打算があるから、勝負を仕掛けてきた」
「どうしてそう思う?」
リンゴはパネルを表示させてシャーロンに見せるように掲げる。
「あなたのFFO配信動画。これを見たら相当な負けず嫌いだって分かる」
シャーロンの戦う姿が映った動画が流れていく。一部FFO内のフィールドでは動画を再生することが可能だ。プレイヤーの要望で追加されたコンテンツでそこそこ需要があったりする。
シャーロンはにっこりと口角を上げて声に出す。
「でも単なる負けず嫌いで嫉妬するかな?」
「負けたら悔しいのは当たり前。あなたは悔しさで嫉妬するほど」
「でもそれだけじゃ……」
リンゴはシャーロンの言葉を遮り口にする。
「あなたはVtube。それもいま話題の。もっと注目されたいから動画映えを気にする。それに」
リンゴは自分のおでこを人差し指でトントンと叩いた。
「私の勘がシャーロンは嘘を言ってるって、そう呟いてるから」
シャーロンは口角はそのままなのに目が笑っていなかった。
「ノーコメントで。でも戦いたいことに変わりはないからそこは信じてね。あ、それと! 嘘を見抜くの本当だったんだね! 魔女ってついてるからてっきりマジックみたいな感じで騙すのかなって思ってたけど全然違った! これは私も予想外だよ!」
「予想外でも想像内じゃない?」
「HAHAHA! 偽魔女を回り込んで倒すの無理そうだね!」
楽観的に笑顔をみせつつもどこか含みのある笑みにリンゴは警戒をせざるを得なかった。シャーロンは視線をアヤに移すと嬉しそうに手を振る。
「殲滅姫アヤ、料理イベントで会おう! もちろん必ず会えるから心配しなくていいよ!」
行きも去るも流星のようにシャーロンは姿を消した。私は小さく空いた口が閉じず、リンゴに目線で訴えかけるとリンゴはそれに気づいた。
「大丈夫。私も困惑してる」
「無理もないわ。あのお……」
再度、イノンはリンゴに口を塞がれてリンゴは小さく鼻息をつく。
「ちょっとイメージが違った。動画のシャーロンだと、冷静沈着な殺し屋の感じだった」
「……ちょっと?」
元気がエネルギーの源の子と冷徹な殺し屋の差大きいと思うけど。
「その……話がこんがらがっちゃったけど、どうしよう」
「今は料理のことに集中するべきだろう」
シャーロンが去った道から視線を外してスミレは私達を見る。
「どうせ戦うのだ。ならば食材集めに勤しむのがいいと私は思う」
「堅物侍は別クランなのに?」
「部外者でも気にかけているクランにあんな軽はずみな発言を口にされては腹が立つ」
「……そう。なら堅物侍ならどうする?」
「勝負するに決まっている」
「珍しく同意見。ちゃんとボコボコにしないと」
「俺も同じ意見だ。妖精の箱庭に喧嘩売って後悔させてやろうぜ」
「私は……回復に徹するわ」
するとリンゴ達が私の方に顔を向けてくる。
「「「「クラマス決めて(くれ)」」」」
……クラマスね。こういう時だけ皆んな頼ってくるんだから。まぁ私も同じ気持ちだからいいんだけど。
「そうだね。私も戦いたいと思ってたから」
手を高らかに上げてすぅーと息を吸い込む。
「よし! 妖精の箱庭は料理イベントでクトゥルフ同窓会を倒す! 異論ある人は手を上げないように!」
瞬時に全員が手を上げて打倒クトゥルフ同窓会と目標が決まったのだった。
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