第39話 食材探し

食材のありとあらゆる場所にある。レシピ本に食材の入手場所が書かれているのだが全て入手するのに三日間だけでは回るのが不可能であった。


「二手に分かれた方がいいな」


カヤックの意見にアヤ達は頷く。アヤは手をグーパーして話しを続けた。


「グットッパで分かれよう」


アヤ達は掛け声を合わせてグーとパーを出す。

結果はアヤ、リンゴ、スミレの三人、イノン、カヤックの二人と一発で決まった。


「リンゴ達は二層を頼む。こっちは一層を探索する」


「分かった」「ん」「心得た」


「ああ、それと。出来れば魚メインで取ってきてくれ。そっちの方が俺としては腕が鳴るからな」


「魚フェチ?」


「魚で新たな扉を開くなんてしたくねぇよ。ああ、いっとくが別にクトゥルフ同窓会を恨んでる訳じゃないからな」


カヤック達は手を振りながら光の粒子となって消えた。


「それじゃあ、私達は二層に行こう」


「アヤ、待って。これあげる」


リンゴから水色の液体のポーション六本を手渡される。


「これなに?」


「水中で息するためのポーション。それがないと、水中で息が切れたときに継続ダメージくらう」


「そうなんだ。有難くもらうね」


アヤは水中ポーションをしまう。するとスミレがムスッと頬を膨らませてリンゴに問いかけた。


「……私にはないのか?」


「堅物侍は上級者。持ってないわけがない」


「…………ない」


「へ?」


「ないと言ってるだろう! 偽魔女えせまじょ、分か……あ、すみません」


アヤは大鎚を下ろしてスミレに小さくため息をついた。


「喧嘩はダメだからね」


「ふふ、アヤ、喧嘩番長みたい」


「殲滅姫で十分お腹いっぱいだからもうあだ名増やさないで」


私はインベントリからポーションを三本取り出してスミレに差し出す。


「リンゴから貰ったものだけど良かったらあげるよ」


「……すまない」


「待って。アヤ」


リンゴが割って入って私の前に大の字で立つ。


「私が渡す。水中ポーションいっぱいあるから」


くるりとスミレの方に振り返り、リンゴはスミレの手のひらに雨あられに大量のポーションを落とす。


「堅物侍、泳げないから沢山あげる」


膝くらいまで積もったポーションにスミレはプルプル体が震えて眉間に皺を寄せた。


「あ、有難く受け取ろう」


怒りを必死に抑えて自我を保つスミレを見てリンゴは悪魔の囁きに耳を傾けそうになるが、背後から殺気を感じて首を横に振った。


「ごめん。多すぎた」


リンゴ達はポーションを仲良く片付ける。

アヤは頭を手に当てつつもリンゴ達に目を向けた。


「じゃあ、行こうか」


「ん」「心得た」


アヤ達は光に包まれて二層の街へ移動したのだった。



◆◆◆◆



いつにも増して二層の街は賑やかで騒がしくプレイヤー達が行き交っている。元々、海の市場なので豊富に食材が揃っているせいで爆買いするプレイヤーが続出し、市場は大混乱になっている。


「これは……やばいね」


「まるでコミケで新刊を求めるオタク連中」


一味徒党いちみととうというものか。これでは食材が買えない」


求める物は皆んな同じ。うーん、ケーキ屋によらず最初に買っておけば良かったかな。


「PvPで賭けあって、買った奴から奪うのもあり」


「せっかく買ったばかりの人から略奪するのやめようよ、リンゴ」


「むぅー、分かった」


イベント始まる前に奪うのは流石にね。まぁダメとは言ってないからいいのかもしれないんだけど。


「収まるまで待つ?」


「ん、たぶんこの状態で、三日間ずっと続く」


「うーん、あの中に飛び込むしかないのかな」


私は市場の方に視線を移す。

荒波のような人波に私は飛び込む勇気がなかった。臭いとかそんなのじゃなくて、見慣れてるせいか……いや、はっきりいうとなにかされるかもと思って怖いから無理。


「ならば別の食材を手に入れに行くのはどうだろうか?」


スミレは手に釣竿を三本手にして私達を見る。


「私は賛成かな。あんな人混みの中に飛び込みたくない」


リンゴは釣竿を手にするスミレを見て口を開く。


「釣竿いつのまに?」


「ケーキ屋に向かう前に買った。色々と入り用になるのではないかと思ってな」


「そうじゃない。なんで三本あるのかって話」


スミレは首を傾げて「え?」と口にした。


「ドラネコ殿が物を買うときはかならず三つ必要とのことだ。確か観賞用、布教用、普段用と言っていた。なんだかよく分からないがつまり予備ということであろう?」


アヤは「ああ」と苦笑いを浮かべて、リンゴは手で顔を覆う。


「……それドラネコのいたずら。本当は一つでいい」


スミレは「あ」と一言口にして少しずつ頬が火照って赤くなっていく。


「ち、違うぞ!? ドラネコ殿がこれは社会で常識だよって言ってたから!」


リンゴは深く鼻息をついて手を肩まで上げる。


初心うぶな堅物侍」


「う、初心ではない!」


「なら人の子供ができるには、どうすればいいか知ってる?」


「だ、だ、男女のキスで出来るはず」


「……ごめん。ここまで純粋と思ってなかった」


「違う!? なら何で子供ができる!? まさかドラネコ殿がコウノトリが運んでくるというのはまことであったのか!?」


「それは…………自分で考えて」


「教えてくれぇ!!」


するとスミレがこっちを向いて、一気に駆け寄り私の肩を掴む。


「アヤ殿! 子供ができるにはどうすればいいか教えてくれ! このままではまたドラネコ殿にからかわれてしまう!」


アヤは無意識に顔を逸らして小さく呟く。


「あー、別に知らなくてもいいんじゃないかな」


「しかし! 無知であることが何よりも無力なんだ。だから私は世間を知らねばならない」


「……」


一瞬、リンゴが怪訝な顔になるが、すぐに無表情の顔に戻る。私はリンゴのその表情が少し気になったが今はスミレのアレをどうにかしなければいけなかった。


「……あ、うん。また今度に教えるから」


「それは本当か!?」


「……う、うん」


ああ、これ逃げれないやつと思うほどスミレの瞳が純粋に輝いていた。リンゴに目線を送ると顔を私達に向けないように逸らす。


「それより、食材を取りに行こう」


「どこに行くの?」


アヤはリンゴに問いかけるとくるりと右足を軸に回転する。


「穴場スポット。たぶんあの場所ならレアな食材も取れる」


「たぶん、ね。ダメだったらどうする?」


「あの人混みを蹂躙する」


「リンゴはどこかの覇王ですか」


「殲滅姫なら全部やれる」


「私は全てを破壊するデストロイヤーじゃないから」


「だが、アヤ殿はPvPイベントでプレイヤー達を葬ったであろう?」


「うぐ……否定できない」


「それと、始まりの草原でフィールドにいるスライム全部倒した」


「そ、それも否定できない」


なんかリンゴとスミレの会話のコンビネーションが上がってる気がする。しかし、仲直りできるのならこれも悪くないかなっと多少は思うアヤであった。


「もう! それより食材取りに行こう!」


「ん、分かった。ちなみに場所は星空の湖海。そこにある秘密の場所に行くから皆んなに内緒で」


アヤとスミレはリンゴに連れられて星空の湖海へ向かった。

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