第24話 最終形態
FFOで職業と武器は密接に関係している。
職業にあった武器ほどその力を存分に引き出せるからだ。たとえば魔法の杖といったINTの高い武器は魔導士と
そんな中で斥候はAGIに特化したスピード型職業である。斥候は索敵、回避、アイテム獲得増加と、はっきり言ってしまえば不遇職のひとつである。なぜならアタッカー型とバランス型の方が、FFOでは攻撃が活かせるからだ。
そのため斥候がSTRやINTの高い武器を装備してもアタッカー型やバランス型に劣ってしまう。
それなのにリンゴはSTRの高い武器、INTの高い武器と交互に切り替えて戦っている。ネタ武器縛りならまだ分かるとしてもリンゴの戦い方は常軌を逸脱している。
そのためリンゴは見た目とは裏腹に大胆で変則的な戦い方をし、見た目が魔女ということもあって
またPvPが実装されてから誰よりも早く初見殺しや数多の戦法を創り出し、それをトッププレイヤー達に試した。頭のネジがぶっ飛んでいると言われたらそれまでだが、彼女は純粋に誰かに自分という存在を知ってほしい信念があったからだ。
なぜそんなことをするのか、それをアヤが知るのはまだ先の話である。
「スキル『MP変換』あんど、スキル『迅速』」
リンゴはHPをMPに変換したあと一定時間AGIが上昇するスキルを使った。
「スキル『狂化』!」
高速で動くリンゴにアヤは対抗して狂化を使った。しばらくの間、STRとAGIを上昇させるスキルだが、やはりAGIが高い斥候ということもあってリンゴに追いつくことが出来ず、先手を取られる。
「スキル『毒霧』あんど、スキル『千本針』あんど、スキル『麻痺斬』」
スキルの宝石箱やと言わんばかりにリンゴのスキルは豊富で、アヤ達の戦いだけで実に三十に及ぶスキルを使っていた。
リンゴの口から紫の煙が吹き出し、煙から小さな針が無数に飛んで何本かアヤに当たる。
横から赤黒の剣が脇腹を引き裂こうと迫ってきて、アヤは上体を反らし、寸前で躱してリンゴから距離を取る。
「スキル『キュアヒール』」
イノンは何度も杖を振るい、アヤに回復と状態異常回復かける。祈祷師の回復量はINTに依存するためイノンはINTの高い装備を着ているのだが、アヤのHPが満タンになることはなく、寧ろ少しずつ減っていた。
リンゴはアヤに追撃するのをやめて、剣を下段に構えた。
「ここまで粘るとはさすがアヤ。それじゃあ、第三、第四は飛ばして第五いこう」
リンゴはスキルを唱えたあと、赤黒の剣が消えてリンゴの背丈より大きい刃の大鎌が現れる。
アヤは自然と声に出した。
「鬼畜だよ!」
「ふふ、そう思ってもらえて嬉しい」
「皮肉なんだけど!?」
「皮肉でも罵倒でも、私は褒め言葉として受け取る」
「リンゴと私の持ってる辞書が違う!」
「お喋りはここまで。次は一発食らえば即死するから、気おつけて」
彼女は大鎚を軽々と振って、私は柄の部分で大鎌を受け止める。
「ならこっちも同じようなのお見舞いしてやる! スキル『魔人殺し』!」
アヤは当たればワンチャン即死ダメージを与える魔人殺しを使う。大鎚が黒い稲妻を放ち、リンゴの頭上に振り落とされる。
「スキル『飛翔』」
リンゴは地面を大きく蹴って空中へ飛ぶ。
「なら私も!」
アヤはそのまま地面に大鎚を振り下ろして地面に衝撃が走る。勢いそのままにアヤは大鎚の柄に飛び乗り、右足に力を集中させてリンゴに向かって空中に飛んだ。
「む!?」
リンゴはアヤの予想外の行動に驚いて、鎌を振るのが一瞬遅れる。
「スキル『魔人殺し』!」
アヤは体を一回転させて左脚をリンゴの脇腹に当てる。リンゴは地面に向かって吹っ飛んでいき、ドスンと大きな音と共に砂埃が舞った。
「やったの!?」
残念ながらイノンのそれはフラグである。
「ん! 〈逆行する時女神〉なかったら終わってた」
アヤの魔人殺しは運良く即死判定になりリンゴを倒したのだが、リンゴは常時スキル〈逆行する時女神〉によってHP1耐えることができた。しかし、このスキルは自身よりHPの多い即死ダメージをHP1で耐える代わりに三分間HP回復スキルで回復できない衰弱という状態異常を付与するスキルだ。
「ま、アヤの大鎚攻撃は全部即死だけど」
むくりと立ち上がって下敷きになった大鎌は粉々に砕けて塵になって消える。リンゴは地面に降りて大鎚を持ち上げるアヤを見て拍手する。
「さすがアヤ。私の編み出した戦法をことごとく打ち破った」
「こっちは満身創痍でやってるんだけど。ね、イノン」
「ええ、私はHP満タンだけどMPがもう枯渇しそうでヤバいわ」
「ふふ、満身創痍なら私もそう。HPが1でどんなに弱い一発でも、くらえば終わる」
「なら受けてくれない? 痛くしないから」
「それは無理な相談。でもアヤがクラマスなるなら負けを認める」
「それって実質的に私達の負けになるんだけど」
「ふふ、じゃあどうする?」
「戦うしかないってことね」
「ん、そういうこと。スキル『武器交換』」
真紅に染まり絶妙な曲線を描いたタガーを構えて、アヤとリンゴはお互い睨み合う。
「次は最終形態。これを見せたのはアヤで三人目」
彼女は瞳を輝かせ緩んだ口を開く。
「スキル『攻撃速度強化』、あんど、スキル『鬼神丿乱舞』」
前にスミレにそのスキルをくらったが、それとは比べ物にならないほど無数の斬撃が飛んでくる。広い場所で動きも制限されていないのにも関わらず、アヤは何度も斬撃に当たってしまう。
「スキル『ハイヒール』! アヤ、もうMPがないわ!」
イノンのMPが切れたとなれば、あとはアヤが勝つのを祈るくらいしか出来ない。
「ありがとう、イノン! あとは全部私に任せて! アルラウネの時みたいに!」
このまま長く続けば確実に負けることをアヤは察していた。渾身の一撃を決めようとしてもリンゴは避ける手段を持っており、また決定的な隙もなく攻めあぐねる。
ならば一か八かの賭けに作戦にアヤは賭けた。
(伝わって!)
イノンとの付き合いは短い。伝わる可能性は限りなくゼロに近かったのだが、アルラウネという言葉に引っかかったイノンは少し時間を要してアヤのしたいことに気づく。
「分かったわ! アヤちゃんに任せる!」
アヤは笑みを浮かべてリンゴに視線を戻し、飛び掛る。
「速さ勝負なら負けない」
縦横無尽に動き回るリンゴの素早さにアヤは立ち止まった。
「スキル『迅速』あんど、スキル『神速』、あんど、スキル『水月鏡花』」
本物のリンゴを中心に六人のリンゴが分かれる。
七人リンゴは目にも止まらぬ速さで動き、本物のリンゴがどれだったか忘れてしまうほど動き回ってアヤの周囲を飛び交う。
「アヤちゃん! しっかり狙いを定めて!」
アヤは頷いて飛び交うリンゴ達を見ていると周囲のどこからリンゴ声が聞こえてくる。
「固有スキル、使わないの?」
「使ったら避けて攻撃するでしょ」
「バレた。やっぱりアヤは警戒心強い。でもそれが命取り」
「そっくりそのまま返すよ」
「ふふ、それはどうかな」
リンゴ達の速度がさらに加速していく。そして音楽が止まった椅子取りゲームのようにリンゴ達は全力ダッシュでアヤに向かった。
「スキル『鮮血の刃』」
ダガーが真紅のオーラを纏い、アヤに向かって構える。
「やっぱりそうだよね」
アヤは本物のリンゴに視線を移して身構える。
「む!?」
「なんでって感じの表情だね。でもリンゴなら私がその戦法を見抜いても対処くらい余裕でしょ」
アヤは大鎚を手から離してリンゴの攻撃を受ける体勢に入る。あまりの予想外の行動にリンゴは関心よりも驚愕が
タガーは勢いそのままにアヤの腹部を突き刺した。
「痛みないけど、見てると痛いやつだよこれ」
アヤは苦笑いをしつつリンゴの腕を掴んだ。
「……どうして?」
リンゴは唖然として顔を上げる。
「だってこうしないと捕まえられないもん」
「そうじゃない! 私を見抜いても、なんで大鎚を降らなかったの!?」
リンゴにとってアヤが分身体を見抜くことは想定していた。しかし、アヤが攻撃もしくは避けること以外するとは全くの想定外だった。
「だって明らかに私が本物です、攻撃してくださいって感じのやつに攻撃すると思う? スキルを使って自分だけ武器に赤いオーラ纏っていたの怪しすぎだよ」
アヤのゲーム知識は著しく疎い。だが皆無というわけではなく、多少の知識は昔やったゲームの記憶に微かに残っていた。
「昔ね。対戦ゲームで明らか攻撃してくれてやつに攻撃しちゃってボコボコにされたことがあったの。それ以来ゲームしてなかったんだけど、あの時の記憶は今も鮮明に残ってるんだ。リンゴもそれをしようとしたんじゃないかって思って、それで咄嗟に思いついたんだけど悪くなかったでしょ?」
リンゴは目を丸くして苦渋の表情を浮かべる。
「で、でも、アヤは攻撃できない」
「確かに攻撃できない。でも攻撃しようと手を離したらリンゴは肩まで斬り裂くでしょ?」
「そ、そう! それに突き刺したままだと、継続ダメージでアヤはゲームオーバー。どうやって打開するの!?」
「このままやられるつもりはないよ。ただ私は攻撃できないのも事実。そう私は、ね」
その言葉を聞いてリンゴは思い当たる。
「祈祷師やめて狂戦士に転職しようかしら?!」
イノンは杖を横に大きく振りかぶり、プロの野球選手を彷彿とさせるスイングでリンゴの攻撃を仕掛ける。
迫りくる杖にリンゴは目を閉じて言葉を告げる。
「スキル『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます