第22話 殲滅姫?

ベージュ色の壁とオイルステインで色味を増したひのきが温かな空間を作り出し、吊り下げた小洒落たランタンが明るく部屋を照らす。二階から見下ろせる吹き抜けの天井に窓から陽光が差し込んで日向を作り出していた。


「適当に座っていい」


アヤとイノンは綿あめのように白くふんわりとしたソファに座り、落ち着かない雰囲気でキョロキョロと周りを見渡す。


「な、なんか新鮮だね」


「そ、そうね」


「あの家具可愛いね」


「シンプルでいいわ」


二人はあまりの緊張に語彙力が低下して、会話のキャッチボールが支離滅裂になった。


「お待たせ。マッシュルーマ持ってきた」


木皿に乗ったマッシュルームの形をしたマシュマロをリンゴはテーブルに置く。


「味ないけど食べて食べて」


リンゴに言われるまま二人はマッシュルーマにパクパク食べる。ちなみにマシュルーマはMPを気持ち少なめ程度に回復するアイテムだ。


「で、二人はどういうご関係?」


リンゴはわざとらしいトーンの高い声で雰囲気がニコニコなのに顔は無表情で聞いてくる。

アヤは深く息を吸って緊張の糸をほぐした。


「一緒に酒場で飲み食いしたフレンド同士だよ」


「ふむ。ならFFOで知り合った感じ?」


「うん。ログインした場所にイノンがいて、それで色々あってね」


「なるほど。アヤとイノンが愚痴り合ってアルラウネ討伐しようっと一致団結して、何とか討伐して、流れに乗ってクラン作ろって感じになった?」


「なんで分かるの」


全然詳しく話してないのに。もしかしてリンゴは読心術のスキルとか会得してたりするのかな?


「いま読心術のスキルとか会得してるのかな、て思った?」


「え、やっぱりそういうスキルあるの!?」


リンゴはニコッと笑って口を開く。


「ない。でそう思っただけ」


「勘……」


リンゴの常識外れの能力に驚くアヤだったがリンゴは話を続ける。


「で、要約してここを拠点にクラン作る?」


「いやいやいや! 話の理解力高すぎない!?」


「私、心を読めるから」


「さっき読心術のスキルはないって言わなかった?」


「冗談。で、クラン作るなら私も入る。ついでにカヤックも誘うけどいい?」


「ちょっと待って。いま頭の中整理するから」


アヤはぐちゃぐちゃになった頭の中を整理する。一夜漬けで覚えた数学や現代文等を隅っこに寄せて、ざっくりとしたクランの知識をまとめて、ゆっくりと口を開いた。


「……おっけ。それでクランを作る話だけど本当にリンゴの家を拠点にしていいの?」


「いい。そのためにこの家を買ってる」


「え、でもそれならリンゴはクランを作ってないの?」


「作ってない。もっと言うと私はクランを作る気ない」


「それはどうして?」


「クラマスになるの面倒い。それに他人に指示出すのあまりしたくない。だからクランに作らず入らずソロでやってる」


なんとも自由奔放な発言にアヤは苦笑いを浮かべた。


「でもアヤがクラン作るなら私も入る。で、アヤがクラマス……あ、クランマスターになる?」


「私? イノンとクラン作ろうって思ってたけど、クランマスターになるつもり全然なかったよ」


「じゃあ、イノンがクラマスになる?」


私とリンゴはイノンに視線を移す。


「イノン、クラマスになってみる?」


私が聞いてもイノンは顔色一つ変えず固まったまま片言で喋り出す。


「アヤチャンハナニモノ?」


イノンにとってリンゴは最上位のプレイヤーのひとりに数えられる。そのリンゴに親しげに話しかけるアヤを見て思考が熱暴走してしまった。


「……PvP二位のアヤです」


「デモニイノショウゴウナイ」


「む? アヤ、メール確認してないの?」


「メール?」


「メニューを開いて手紙のアイコンがある。そこにPvPの報酬が届いてる」


私はパネルを開いて確認すると赤いビックリマークが付いたアイコンが表示させる。それを開いてメールの確認し、受け取るを選択した。


『称号【天頂を継ぐ者】を獲得しました』

『500万ギルを獲得しました』

『追加スロット×8を獲得しました』

『装備スロット【呪禁】を獲得しました』

『装備スロット【剛体】を獲得しました』

『装備スロット【不壊】を獲得しました』

『装備スロット【黄金の杯】を獲得しました』

『装備スロット【奈落の宝玉】を獲得しました』

『アクセ〈退魔の小刀〉を獲得しました』

『アクセ〈幼狐の金鈴〉を獲得しました』

『家具〈幼狐の銀トロフィー〉を獲得しました』

『家具〈幼狐のぬいぐるみ〉を獲得しました』


と一通目のメールを開封し終わる。

他にもあって全部開封し終わるのに少し時間を要した。


「これでいい?」


「ん、バッチリ。これですぐに殲滅姫だと分かる」


「………………殲滅姫?」


え、なにそんな称号やスキルあったけ。

私はステータス画面をひらいて確認する。


プレイヤー名【アヤ】​

職業 [狂戦士]

Lv〈 39 〉

称号【​スライムの殺戮者】【世界を渡る者】【天頂を継ぐ者】


​​───【ステータス】​───

HP〈1530/1530〉

MP〈154/154〉

STR〈970〉

INT〈8〉

DEF〈68〉

RES〈8〉

AGI〈290〉

LUK〈10〉

​───【装備】​────

両手〈星堕とし〉

頭〈天龍の髪飾り〉

腕〈天龍の手甲〉

胸〈天龍の上衣〉

腰〈天龍の下衣〉

足〈天龍の革靴〉

アクセ〈​──〉

​───【スキル】​────

固有スキル【激情の破槌】

職業スキル〈狂化〉〈魔人殺し〉〈メテオストライク〉

汎用スキル〈スライムキラー〉〈瞑想〉〈迅速〉〈発勁〉〈挑発〉〈抗体〉〈血清〉〈エナジードレイン〉

常時スキル〈死の淵に立つ者〉[羽化する妖蝶]



しかし、殲滅姫という称号やスキルは見当たらない。


「リンゴ、殲滅姫ってどういうこと?」


「ん? あ、なるほど。これはこれで面白いし使える」


リンゴは含み笑いを浮かべてマシュルーマを食べる。


「え、本当になに!?」


「そのうち分かる」


「教えてよ!?」


リンゴの口は一向に開かず、隣に座っていたイノンに話しかける。


「イノン! 殲滅姫ってなにか分かる!?」


二位のアヤと六位のリンゴと対談にイノンの脳内はキャパオーバーしてしまい、背景が真っ白に染まってしまった。アヤは何度イノンを揺すっても受け答えしかできないNPCと化していた。


「教えて欲しいなら戦おう」


「……え? それってリンゴと戦うってこと?」


リンゴはコクリと頷き、私は大きく首を横に振った。


「いやいやいや! リンゴと戦って勝てるわけない!」


「アヤは二位だったのに?」


「それは……たまたま二位になったというか」


「たまたま、ね。私はライジンと戦って敗戦したのに、アヤは万年二位のジャックに勝ってる。たまたまなわけない」


「待って待って待って待って。話が追いつけない」


クランマスター? 殲滅姫? リンゴと勝負?万年二位のジャックに勝った? 情報量過多で頭が爆発するぅ……

アヤは頭を抱えて唸っているとリンゴが立ち上がってアヤの近くに寄り、下から覗くようにしゃがんだ。


「アヤが勝ったら私がクラマスになる。殲滅姫のことも教える。もし嫌だったら殲滅姫の噂を揉み消しておく」


「そうじゃなくてぇ……頭がいっぱいいっぱいなんだよぉ」


リンゴはニヤリと企んだ顔で口にする。


「私と戦えば全て解決する」


「…………ほんとぅ?」


「ん、戦ってアヤが勝てば何もかも丸く収まる」


「……わかったぁ。リンゴとたたかうぅ」


あまりの情報量に幼児退行してしまったアヤはリンゴの巧みな言葉に乗せられて承諾してしまった。それがリンゴの策略だと知らずに。

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