第21話 物件探し

カラフルな建物が立ち並ぶ光景に見とれつつアヤ達は理想の家を探し続ける。


「あそこはどう?」


イノンが指した建物は暗い赤みの弁柄べんがらレンガで出来た黒い屋根の四階建ての家だ。アヤはじっーと見つめて口を開く。


「悪くないけど、少し地味な感じがする」


「じゃあ、あれは?」


次に指した建物は半分ほどツタで生い茂った薄汚いレンガの家だ。


「これはちょっと古臭いかな」


「ならあれとか!」


オンボロのそれも出るものが全部出そうな暗雲立ちこめる古びた建物。これに住もうとするなら変人か動画でネタにする投稿者くらいだろう。


「……イノン、家選び苦手?」


「あ、ははは……住めればどこでもいいやって精神だから」


住めればって……イノンは現実で事故物件とか辺鄙へんぴな場所に住んでたりしてないよね。まぁ詮索はあまりよくないし、頭の隅っこにイノンは家選びセンスは壊滅とだけ記憶しておこう。


「あ、あれなんてどう?」


今度はどんなヤバい物件を選んだのかと半ば諦めモードで視線を移す。

途端、アヤは目を見開いて歩みを止めた。

カラフルな建物が立ち並ぶ中でひっそり佇み、趣ある白いレンガと木で造られた家、小洒落た角灯かくとうのランタンがさらに味を引き出し、ホコリひとつない透き通るガラスに木の枠の窓でアヤを惹きつけた。


「……あれすごくいい」


前言撤回。イノンの家選びセンスは光るものがある。私達はその家に近づいて周辺をキョロキョロと見渡す。


「近くに寄ると本当にオシャレな家だなぁ」


お店の看板があったら立ち寄ってしまいそうな雰囲気だ。


「あ、このお宅もう購入されてるわ」


イノンは残念そうにパネルを見る。


「そっか。良物件だもんね」


オシャレな家だし、近くにアイテムの店もあるから購入されちゃうよね。譲ってくれたりとかは……無理かな。


「へぇーこのお宅の主、この前のPvPイベントで一位のライジンに大健闘してた子だわ」


アヤは感嘆かんたんのため息をつく。

ライジンの名前は見覚えがある。確かPvPイベントで一位の人だったっけ。その人のおかげで二位になって、特段話しかけられることないから助かってる。もし会えたら感謝しないとね。

……たまにチラチラ見てくるプレイヤー達がいるけど気のせい気のせい。


アヤ達から声が届かない少し離れたところで見知らぬ三人の男プレイヤーがヒソヒソと話し合う。


「あれ殲滅姫じゃね?」


「いや、殲滅姫に寄せたパチモンだろ」


を持ってないもんな」


「でもパチモンにしては似すぎてね?」


「プロが本気でキャラクリすりゃいける。この前の無双王のパチモン見た時は本物の無双王だと思ったぜ」


「無双王……あだ名にしてはダサいな」


「殲滅姫はどうなん?」


「可愛いは正義。Q.E.D.キューイーディ証明完了」


「まぁとんでもなく可愛いのは認めるけどさ」


「中身がおばさんだったりして」


「おい、変なの想像させるな。リアルでそんなの見たら発狂しちまう」


「リアルとネットは違うもんな。というか早くここから離れようぜ。神出鬼没のアイツが勝負仕掛けてくるかもしれねぇから」


「黙ってたら可愛いとは思うけどな、アイツは」


「ないない。それにリアルはぜぇてぇー厳つい女だと思うぞ」


男三人は逃げるようにその場を去った。

そんな神出鬼没の何かをアヤ達は露知らず、お互い話に夢中になる。


「実は私、ある御方の配信を見てFFOを始めたの。いつもその人のFFOは本気で楽しんでるんだなって感じで、私のゲーム魂がやれって訴えかけてきたのよ」


「へぇーイノンをそこまで言わせるなんて、その配信者さんすご」


「えぇ、あの御方の配信は見ていて面白くて、ついそのゲームをやりたくなっちゃうのよ。他にもいっぱいあるんだけど、やっぱりFFOのPvPの戦闘が印象に残りすぎて毎回見ちゃうの」


イノンの止まることなく、息もつかせぬまま話は続く。


「でね。あの御方以外のPvP動画も見たんだけど、どのグループも見応えがあるのよ。で、あの御方の動画と同等に印象に残ったのがこの家の主の子と一位のライジンさんとの戦闘。そして和服少女と二位のアヤさんが一騎打ちで勝負をつけるシーンが本当にかっこよかったわ」


イノンは心酔した眼差しで軽やかに体を揺すった。


「アヤちゃんもそのアヤさんに憧れてアバターをマネたでしょ? 名前も見た目も完全に一致なんて並大抵の人間が出来ることじゃないわ」


アヤは本当のことをいうか、一瞬躊躇ためらったがイノンに嘘をつくのは嫌で恐る恐る口を開いた。


「……イノン。えーとなんて言ったらいいのかな。その…………私が二位のアヤです」


「またまた。もし本人なら二位のを持っているわよ」


「え、いやでも私、本当に……」


「私の家に何か用?」


聞き覚えのある声が横から聞こえてきて、視線をそっちに移す。魔女帽子を被った青髪の少女が無表情のまま近づいて、私をじっーと見ると魔女はピタリと止まり、嬉しそうに口元を釣り上げて私に飛びついた。


「アヤ! 二層攻略したの!?」


リンゴは谷間から顔を上げて一段と瞳を輝かせる。


「ま、まあ。私ひとりで攻略したわけじゃないけどね」


私はイノンに視線を向ける。リンゴは抱きつくのをやめてイノンにじっーと見つめた。


「初めましてこんばんは、イノン。私はリンゴールド。二人は一緒にアルラウネ攻略してたの?」


リンゴの問いかけにイノンはしばし硬直して小刻みに体が震え出す。


「り、り、リンゴールドさん?!」


「ん、私はリンゴールド。呼びにくかったらリンゴでおっけ」


「いやいやいやいやいや! どうして最上位プレイヤーのあなたがここに!?」


「む、今あなたが立っている後ろの家。それ私のホーム。で、新しいアイテム手に入れたから置きに来た」


アヤとイノンは交互に家とリンゴを見て同時に叫んだ。


「リンゴの家!?」「リンゴールドさんのお宅!?」


リンゴは無表情のままダブルピースしてチョキチョキ動かす。


「二人いい反応。この家、購入してよかった」


リンゴは家の扉の取っ手を握ってガチャンと音と共にゆっくりと扉が開く。


「さ、入って入って。お菓子や可愛い戦利品がいっぱいある」


可愛い魔女が魅惑的に二人を誘い込む。アヤとイノンは誘われるがままに魔女の家の中に入った。


「……大丈夫か、あの二人」


少し遠くの物陰から赤い宝石の杖を背負った青年プレイヤーが顔を出し、哀れみの目でアヤ達が入った家を見て呟く。


「魔女の館か」


ちまたでプレイヤー達を騒がしている偽魔女えせまじょが住む恐怖の家。

前に偽魔女に家に連れられた大の男達がしばらく経って顔面を涙で塗りたくって去っていったのを未だ青年の記憶から離れない。


「ま、まぁ……俺には関係ないな」


青年は踵を返し、ムズムズとする胸を抱えてその場を去っていった。

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