第20話 二層の街
「アヤちゃん、ナイス勝利!」
イノンはこれまでにない満面の笑みで独特なガッツポーズをする。
「イノンのスキルのおかげで倒せたよ」
「うんうん、あの中に飛び込めたのはアヤちゃんの勇気があってこそよ。私のスキルはあくまで補助だから」
「そんなことないよ。あれがなかったら私、死んでたっぽいから」
「じゃあ、私達の勝利ってことで」
アヤとイノンはハイタッチして、しばしの勝利の余韻に浸った。
「アヤちゃん、宝箱ゲットした?」
「あ、はい。装備の宝箱をゲットしたよ」
「なら一緒に開けない? こういうのは今のうちに開けた方がどんな物が出てても後悔しないと思うから」
「分かった。もしいいの出てもお互い恨みっこなしで」
私は置くボタンを押して少し前方に横にした自動販売機くらいサイズの宝箱が現れる。
「三、二、一、ゼロで開けるわ。準備はいい?」
「はい!」
二人はカウントダウンをして、ゼロになったと同時に宝箱を開けた。
アヤの宝箱に入っていたのは宝箱の大きさにそぐわず小さな赤い宝石のイヤリングであった。
アヤはイヤリングを手に取ってじっーとそれを見続ける。
〈精霊結晶の耳飾り〉
精霊女王の涙が人界へと零れ落ちて水晶となったもの。壊れやすく一流の金細工職人でも多大な時間と複雑な加工を要する。
───【ステータス】───
LUK:10
防具スロット〈1〉
【浄化の雫】──毒、猛毒、麻痺、幻惑の状態異常を無効化する。
アヤはイノンの方に視線を移して口を開いた。
「イノンは何が出た?」
「妖魔の靴よ。悪くないけど前衛職が着る服だからあまり使えないわ。そっちは?」
「精霊結晶の耳飾りだけど当たりなのかな?」
「当たり中の当たり引いてるじゃん! でも耐久値が低いから使い所に困る部分はあるけどね」
アヤは耳飾りをじっと見つめながら眉を曲げる。
耐久値が低い、ね。なら不壊の装備スロットをってスロットが一つしかないから無理か。
……あ、でも追加スロットとかあれば確か装備スロット増やせるってリンゴが言ってたっけ。
でも私、持ってないんだよね。あとでリンゴにどうやって手に入れるか聞いてみよう。
アヤは耳飾りをインベントリにしまって奥の方にある装飾された木の扉を見る。
「あれが第二層の入口ですか?」
「そうね。あの扉を開けば第二層の街にワープされるみたいよ」
「第二層の街……」
最初の街と比べてどんな感じで違うんだろう。
どんな人がいるのか、どんな街並みをしてるのか、どんなモンスターがいるのか、少しワクワクしている自分がいる。
私とイノンは扉の前に立ち、お互い視線を交えて頷く。
「「いっせーのーで!」」
アヤ達は扉を開けて眩い光に包み込まれた。
◆◆◆◆
次にアヤ達が目を開くとそこはヴェネツィアを彷彿とさせる街並みだった。
色彩豊かな建物が立ち並び、舟が水の流れに乗ってゆっくりとアーチ状の橋を潜り抜け、潮の香りがほんのりと辺りを漂って個性豊かな人々が行き交っている。
「アヤちゃん、生きてる?」
イノンはアヤの目の前で手を振るが一向にアヤは固まったままだった。
「……もしかしてフリーズした?」
FFOはオンラインゲームであるが南極やアマゾン川でプレイしない限り、回線が遅延したり落ちないほどネットに強いゲーム機である。
落ちるやフリーズといったエラーを見れたら、自分が乗った飛行機がハイジャックされて人質にされること同じくらい珍しい光景だ。
「……は!? ごめん。景色に見惚れてた」
アヤはビルが立ち並ぶ殺風景の光景と毎度お馴染みのグリーンバックに飽き飽きしていた。そのためアヤにとって幻想的な景色は心を癒すオアシスのようなものになっていた。
「確かにこの景色は圧巻ね。だけどもっと色んな絶景があるからそれを見て回るのも悪くないと思うわ」
イノンは鉄格子に鉄の
「アヤ、二層に来られたのはあなたのおかげよ」
「うんうん、イノンのサポートがなかったら来れてなかったよ」
「ふふ、謙遜しちゃって。でも私が役に立ってくれたなら嬉しい限りだわ」
イノンの髪が潮風に揺られて、涼しげな空気が流れ込んでくる。
「……ねぇアヤ。あなたはどこかのクランにもう誘われてたりする?」
「一度も誘われてないよ」
「え、そうなの!? てっきりあなたみたいな強いプレイヤーはとっくに誘われてるかと思ってたわ」
「不定期にそれも長ければ二週間開けてログインするから誘われることなんてないと思う」
「あぁ確かにログイン率が低いと難しいわね。ガチ勢クランとかって会社みたいに組織としてやってること多いし、普通のクランもログインが低いとFFO引退したのかと勝手に思って脱退させるものね」
「……そうかもね。でも私は気ままにFFOを楽しんでやりたい派だから」
私も手摺に寄りかかり、遠くを見つめた。
「もしクラン入るんだったら自由に過ごせて時間があった時に親しい知り合いと一緒にクエストとかやりたいかな」
これは心からの本心だ。多忙な毎日の私は他人と過ごす時間が極端に少ない。だからなのか高校に入っても仲がいい子は出来なかったし、私が早く帰るから他の子達と話す機会が全然なかった。後者は下心満載の生徒達から逃げるためだけど。
「そんなクランないと思うけどね」
まず知り合いって時点でだいぶ限られる。リンゴ、カヤック、イノン、あとは……フレンド同士じゃないけどスミレもかな。そこから自由に遊べるクランってなるとない気がする。
「じゃあそのクランを作りましょう」
「……え?」
突然の宣言に思考が追いつかず、アヤは口をパクパクさせる。
「ないなら作る。これって常識よ」
「じょ、常識と言われても作るったってどうやって……」
「あら、クランって二人以上と拠点さえあれば誰でも作れるのよ?」
「ま、マジですか」
イノンはニヤリと笑い、軽やかに足を運んでアヤの目の前に立つ。
「新天地で家を買って気ままに仲間と冒険! 言い方変えれば楽しそうに思えない?」
「そう言われると……そうかも」
自分の家でパーティとか開いて、今どきの話をして盛り上がったり、お菓子とか食べたり、好きな歌を歌ったり踊ったりして……あれ? 考えたら何か楽しくなってきた。
アヤは瞳をキラキラと輝かせてイノンに視線を向ける。
「新しい家を探そう!」
「なら善は急げ、ね。もちろん買える値段でだけど」
イノンは眉を寄せて微笑を浮かべた。アヤ達は綺麗な街並みを走り抜けて自分達の拠点探しに没頭するのだった。
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