第14話 闘争心
アヤは狂化を使いながら走って移動している。狂化はSTRとAGIを上げるので移動するのに便利なスキルだ。それに途中でプレイヤーと鉢合って倒すのもお手の物である。
「此処で会ったがひゃ……そげぶ!?」
言い切る前に大鎚で叩いて倒していく。しかし、何度も同じように一撃で倒してしまう。たまに耐える人もいるが、その時はメテオストライクなり、攻撃を何発も当てるなりして倒していく。
「到着と」
ようやく岩場に着き、私は時間とマップを見る。あと一分でマップにプレイヤーが表示される。その前に魔法薬を飲んでMPを回復しておく。
「すぐ近くには……いないね」
一応安全なことに胸を撫で下ろす。
「そういえばリンゴとカヤックさんはどうしてるんだろう」
どこかで戦っているのかな。負けてリタイアしてなきゃいいんだけど。
「探すのは無理だよね」
無数の赤い点から探し出すの無理だ。
方法があるとするなら上位五名になって引き寄せるくらいだけど、これも無理な気がする。
「二人が上位5名になってくれたらいいんだけど」
二人がどのれほど強いか分からない。特にリンゴに関しては謎だらけで強さが未知数だ。
「考えてもしょうがない。有利な地形で待機しよう」
険しい道を進みながら奇襲できそうな場所を探す。リンゴにみっちり教えられておかげでこうして戦えているから会ったら感謝しないとなぁ。
「おや。随分と可愛い子猫が迷い込んできたな」
岩の影から男が出てくる。アヤは大鎚を構えて臨戦態勢に移行した。
「そこ退いてください。倒しますよ」
「どうせ倒すだろ。それより本気で俺達と戦うつもりか?」
男は指を鳴らし、所々にある岩から五十人近い男達が現れる。
「チーミングはダメだったはずですが」
「チーミング? 別にこいつらと一緒に戦うわけじゃねぇよ。こいつらはあくまで見ているだけだ」
あくまで見ているだけ。
男の言った言葉は百パーセント嘘だ。
私の憶測になるけど男達は複数で戦うことはせず、あくまで1対1で戦って負けそうになったら交代する、そんな感じな気がする。故意に一緒に戦ったら退出させられる、そんなルールの穴をついた感じかな。
「まとめてかかってくればいいのに」
「は! それをすると思うか? 悪いがチーミングでBANされるつもりはないぜ」
「いえ、まとめて倒すのに手間が掛かるなぁと思っただけです」
アヤは大鎚を振り上げて声に出す。
「スキル『激情の破鎚』」
本日二回目の固有スキルを地面に叩き込むと地面の裂け目から光が迸る。男達はもれなく全員待機画面行きとなった。
「あと一回しか使えないや」
アヤは大鎚を持ち上げて辺りを確認する。
一応試合中にもう一回復活するけど、そもそも生き残れるか分からないから実質的にあと一回だ。
「うーん、ちょっと休憩しよう」
私は魔法薬を取り出してMPを回復する。
しばらくしてマップにプレイヤーが表示される。今のところこっちに向かってくるプレイヤーはいないけど油断禁物だ。
「結構赤い点が減ってる」
あんなにあった赤い点がもう半分ほどになってる。マップを見ると、赤点Aを倒した赤点Bが赤点Cという感じで同じようにループしてやられていく。リンゴから聞いた知識だけど、これが俗にいう漁夫というものらしい。
「これ不毛な戦いだよね」
せっかく10ポイントを稼いだのにやられてゲームオーバーになったら落胆すると思う。
「私は運良く漁夫られなかったからよかったけど」
本当は漁夫られそうになっていたのだが、アヤは周囲を巻き込んで漁夫を倒していたことに気がついていなかった。
しばらく岩を椅子替わりにしてマップを眺めていると、どこからともなくアナウンスが聞こえてくる。
『皆んなここまで健闘して凄いの! でも今から発表するBグループ上位5名はもっと凄いの!』
狐幼女の声が聞こえてきて画面が表示される。
『上から順にトンコツ様、RURU様、アヤ様、スミレ様、ハクリュウ様、以上5名をマップに表示するの。頑張ってこの5人を倒してポイントを入手するの』
するとマップに五名の位置が表示される。
アヤは何度もマップを確認してみるが、なぜか自分の位置が常に表示されていることに戸惑いを隠せなかった。
「……え、アヤって私なの?」
同名の人かと思ったんだけど……え、本当に私? 間違えてない?
「これってまずいよね」
逃げ隠れしようかと思ったけど、常に位置が筒抜けなら隠れても意味がない。
「見つけたぜ上位者!」
ひとりまたひとりとプレイヤーが増えてこっちに向かって走ってくる。アヤは狩人から逃げる兎のように走り回る。
しかし、行く先々にプレイヤーが現れて何度も迂回しながら逃げるが、少しずつ逃げ道がなくなっていることに気がついた時には既に包囲されていた。
「もう逃げ場はねぇぜ!」「先に俺が倒す!」
「早い者勝ちだ!」「へへ、痛くしないからこっちにおいで」「俺がやる!」
一斉に襲いかかるプレイヤー達にアヤは卑怯と叫びたかったが、それで助かるわけじゃない。なら一斉に倒せる最後の切り札を使うしかない。
「スキル『激情の破鎚』!」
渾身の一撃を打ち込み、本日三回目の地割れを起こす。天まで届く勢いで光の柱が噴出し、包み込まれたプレイヤー達は全員消滅していった。
「はぁ……はぁ……」
流石に疲れた……精神的に。けどこうしてもたもたしてる間にまた敵が来る。
「とりあえず回復薬と魔法薬で全回復っと」
もうかなりの量を飲んでいるのに腹がたぷたぷにならない。仮想だからそういうのないのは有難いけど、味がないのがちょっと不満。
「さて……逃げよう!」
時間までに逃げ切ることが出来れば報酬獲得だ。某テレビ番組のあれみたいでちょっとワクワクする。
「その者、止まれ!」
逃げようとした矢先、プレイヤーが巨岩から飛び降りて道を塞ぐ。だけどそのプレイヤーに私は見覚えがあった。
「リンゴと知り合いの和服少女さん?」
「ん? そなたは……アヤ殿ではないか!」
和服少女は中段で構えていた刀を下段に構える。
「まさかそなただったとは。そなたも上位5名に選ばれているとは流石である」
「あ、ははは……成り行きで」
なるつもり全然なかったんですけどね。これっぽちもね!
「
「は、はぁ、はい」
「さて、アヤ殿ともう少し談笑したいものだが今は敵同士である」
「そ、そうですね」
「つまるところ私はアヤ殿と戦わなければならない。無論、逃亡するのもよいが可能であれば一騎打ちを申し込みたい」
「一騎打ちですか。でも他のプレイヤーが漁夫をしに来ると思いますよ」
「それはない。ここ一帯にいたプレイヤー達がなぜか一斉に消え、またこの地帯の近くにいたプレイヤーは粗方私が倒した。前者をやったのはアヤ殿でだろう?」
「え、ええ、まあ」
「ならば問題ない」
「いやでもですね。僅かな可能性としてこっちに来ているプレイヤーがいるかもですよ」
和服少女は懐から野球ボールくらいの大きさの布に包まれた球体を取り出す。
「煙玉を使って敵を惑わすのはどうだろうか?」
「私の位置常に表示されているのでバレますよ」
「そうでもない。ここ一帯に煙を焚けば、たとえ位置がバレていようとも警戒して
和服少女は胸を張ってこちらを見る。つまるところ断っても断れない。
「……私と戦いたいんですね」
「うむ。アヤ殿と戦ってゆう……ゴホン! どれほどの実力なのか確かめたいのだ」
「分かりました。手加減しませんからね」
「うむ! それで構わぬ」
アヤと和服少女は一帯を煙の海にし、自分達が戦う場所だけ焚かずに場を整える。
「では尋常に」
「ちょっと待ってください。あなたのプレイヤー名はなんて言うんですか?」
「なんと!? 名乗り忘れていたとは無作法であった。アヤ殿、本当に申し訳ない」
「あ、いえ。教えて頂ければ別に大丈夫ですから」
和服少女は胸に手を当てて一礼する。
「私はスミレと申す。どうぞお見知りおきを」
……私も名乗った方がいいよね。
「私はアヤです。知ってるので意味ないかも知れませんが」
「いいや、アヤ殿から名乗ることで意味を成す。だから無意味ではない」
和服少女───スミレは刀を構えて間合いを取る。
アヤも大鎚を構えて臨戦態勢に入った。
「では尋常に勝負!」
かくしてアヤとスミレの戦いの火蓋が切られた。
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