第13話 死闘のPvP

刻々と迫る開始時刻にそわそわし始めて、目が泳ぐ。


「アヤ、落ち着いて」


リンゴに肩を叩かれて緊張のフタが爆発して振り返る。


「リ、リンゴ、脅かさないでよ」


「めんご。でも緊張ほぐれたでしょ」


「逆効果だよ。むしろ悪化したよ」


ステージに立つより何倍も。だけど緊張ほぐそうとしてくれたのには感謝かな。


「でも緊張をほぐそうとしてくれてありがとう」


「ん、どういたしまして」


初期の噴水の上に浮かぶ巨大な白いパネルが周りにいるプレイヤー達の緊張と興奮を高める。あと数分もしない間に転送されるのにその数分が何時間も長く感じた。

そして残り一分半となったところで、白いパネルから狐耳の幼女がコンコンポーズをしながら飛び出してきた。


「プレイヤーの皆さん、おはこんばん! マスコットキャラのキリカ参上なの!」


すると大勢のプレイヤーが雄叫びを上げる。まるでライブ会場のようにキンブレを振り回して踊り出すプレイヤーもいたが、気にしたらろくな事にならないだろう。


「今回の大型イベントを皆さんはご存知なのかもだけど、念のため説明してあげるの!」


新たに白いパネルが表示されて狐幼女はつらつらとルールを説明していく。リンゴ達から事前に聞いているので復習も兼ねて聞く。


「皆さんが転送するのは超大型フィールドなの! 砂漠、荒野、森林、沼地、湖、岩礁など何でもあるフィールドなの! ゲーム内時間は夕暮れに固定だから少し視界が悪いのに注意して戦うの! 一人倒すと10ポイントをゲットできるから倒し続けてランキングに頑張って載るの! そして豪華景品をゲットするの! またやられても参加賞はあるから落ち込まないでなの!」


狐幼女が白いパネルを閉じて可愛らしい仕草で告げる。


「それでは! 第一回PvPイベント開催なの!」


すると一斉にプレイヤー達が光に包まれて消えていった。



◆◆◆◆



視界一面に広がる真っ黒い世界に残り九十秒と表示された白いパネル。

リンゴ曰くここが待機場とのことだ。


「えーと、一応ステータス確認しとこ」


50レベルがどのくらいのステータスなのか確認しとかないとね。ステータスオープンと唱えるとパネルが表示される。



​プレイヤー名【アヤ】​

職業 [狂戦士]

Lv〈 50 〉

称号【​スライムの殺戮者】


​​───【ステータス】​───

HP〈1800/1800〉

MP〈240/240〉

STR〈1060〉

INT〈10〉

DEF〈80〉

RES〈10〉

AGI〈350〉

LUK〈10〉

​───【装備】​────

両手〈星堕とし〉

頭〈天龍の髪飾り〉

腕〈天龍の手甲〉

胸〈天龍の上衣〉

腰〈天龍の下衣〉

足〈天龍の革靴〉

アクセ〈​──〉

​───【スキル】​────

固有スキル【激情の破槌】

職業スキル〈狂化〉〈魔人殺し〉〈メテオストライク〉

汎用スキル〈スライムキラー〉〈瞑想〉〈迅速〉〈発勁〉〈挑発〉〈抗体〉〈血清〉

常時スキル〈死の淵に立つ者〉



今のステータスを見てだいぶ強くなってるなぁと見て取れる。


「うーん、動いて見ないと分からないか」


私は大鎚を振り回して自分の動きを確かめる。それから時間がくるまで何度も脳内シュミレーションをして時間を潰した。

そしてゼロになった瞬間、真っ黒な視界が鮮やかな風景に変わった。


「始まっちゃった」


まだ少し緊張しているけど、切り替えていこう。


「よし。隠れ……いや、有利ポジに行こう」


リンゴに教わった戦いの基礎を思い出し、私はマップを見て自分がいる場所を確かめる。


「森林地帯か」


動き回るのが得意な職業はここが有利らしい。私の職業だとそこまで俊敏に動けないから隠れやすくて奇襲しやすい岩場のある地形に行った方がいいかな。


「そうと決まればここから離れよう」


マップを閉じて走って移動する。今のところ順調に会敵してないが、いつばったり出くわすか分からない。

しばらく走っていると木々の隙間から光るモノを目の端で捉える。反射的に身を翻し、飛んでくるナイフを避ける。


「今のを避けるとはやるな」


木々の間から黒いマントを羽織り、山のように尖った黒髪の男性が出てくる。


「森林地帯にスポーンした時は運があると思ったが、運命と書いてこっちの運もあったみたいだ。どうだ、お嬢さん。これが終わったら一緒にクエストでも行かないかい?」


紳士っぽく男性はお辞儀をするが、アヤの答えはとっくに決まっている。


「結構です」


「そいつは残念だ。なら俺のポイントとなってもらおうか」


お互い距離をとりつつ警戒していると男性が距離を縮めてくる。アヤは大鎚ウォーハンマーを薙ぎ払って倒そうとするが、男性は寸前のところで体を反らし、避けられる。


「まずは一発」


アヤの左大腿ひだりだいたいに被弾エフェクトが飛び散る。アヤは体勢を立て直して大鎚を男性に向かって振り下ろしたが、男性は寸前のところで躱して間合いを取る。


「当たったら確定一撃死だな」


男性は恐ろしいモノを見る目で口笛を吹く。

しかし、逃げることなくナイフを構えてアヤに突撃し、攻撃を仕掛ける。

あらゆる方向からの斬撃をアヤは必死に躱しつつ、一歩また一歩と後ろに後退していく。


「かかったな」


「っ!?」


男性がそう言うとアヤの足元から火炎の柱が噴き出して、アヤは避けきることが出来ず被弾エフェクトが火花ように飛び散った。


「ひゅー、今の攻撃で死なないとはやるね」


今の攻撃を死なずに避けるプレイヤーは数が少ない。もちろん注意深く見られたら罠があるとすぐにバレてしまうが、それを意識させないように自身に注意を引かせて戦う。男性にとって対人戦には自信があったのだが、世界が広いことを考えさせられた。


「さて、そろそろ狩らせてもらうぜ」


男性はナイフを構えてじりじりと距離をつめる。アヤは大鎚を構えて声に出した。


「スキル『メテオストライク』!」


アヤは地面に叩き込むと地面が裂けて辺りに広がり、光が溢れ出す。

メテオストライクは激情の破鎚には劣るが一定距離の範囲攻撃でリチャと回数制限がない使いやすいスキルである。

しかし、男性は範囲攻撃のギリギリ手前で避ける。


「狂戦士のスキルか。見た目で大体予想ついてたが、やっぱりアタッカーの一撃はえげつないね」


男性は再度ナイフを構えてアヤに飛び掛る。アヤスキルの硬直で一瞬動けず、二発攻撃を食らって後方へ飛ぶ。だが、男性は追撃をやめずアヤは必死に避け続けるが、罠とナイフの波状攻撃に少しずつHPを削られていく。


「スキル『メテオストライク』!」


アヤは打開のスキルを放つが、男性は難なくそれを紙一重で避ける。


「お嬢さん、そのスキルは僅かに硬直時間があるんだ。俺みたいなAGI特化の職業だと、その硬直の間に二三発ぶち込めるからカモになるぜ」


男性は最速でアヤに向かい攻撃を仕掛ける。

だが、アヤは男性が向かってくるのを待っていた。


「スキル『激情げきじょう破鎚はつい』!」


三回しか使えないスキルを惜しげもなくアヤは使う。もちろん残りHPとMP全部使ってだ。それくらいしないとこの男性に勝てないと判断したのだ。

地面に叩き込み、ガラスのようにひび割れて眩い光の柱が噴出する。


「な!?」


男性は光に巻き込まれてパリンと音を立てて被弾エフェクトと共に姿を消した。


「おい!?」「ちょ!?」「デス!」「待って!」「ひでぶ!?」「ま!」


漁夫るつもりで木の背後に隠れていたプレイヤー達がアヤのスキルに巻き込まれて何も出来ず消滅していく。また森林地帯で近くにいたプレイヤー達も巻き込まれてお陀仏したのだった。


「あ、あぶな」


固有スキルを使わなかったら負けていた。あんなプレイヤーがわんさかいるなんてPvPヤバい。


「とりあえずHPとMP回復しよう」


回復薬と魔法薬を取り出して…………なんか数が多いけど、さっきのプレイヤーが多く持っていたのかな。


「では有難くいただきます」


ゴクリと飲んでHPとMPを全回復するまで何本も飲む。

回復が終わって時間を見ると25分以上過ぎていた。


「あ、プレイヤーの位置表示もう終わってる」


また会敵したら面倒なんだけどなぁ。


「まぁいいや。また出くわしたら戦うまでだ」


負けたらそこまでの実力だったってことだ。

……でもなぜか胸が高鳴って冷静になれない自分がいる。


「何だろうこの気持ち」


分からない。こそばゆくて、でも悪い感じがしなくて、心地がいいとも言えない。


「また戦えば分かるかも」


自分の気持ちに無頓着だった綾香だったが、自分の気持ちに少しずつ興味を持ち始めたのだった。

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