第12話 スキル会得と侍

「うわぁ、森の中すご」


青く生い茂る木々にほんのりと光る緑の茸が薄暗い森を照らす。茂みには所々にモンスターの姿がちらりと見えて、アヤは警戒しつつ歩いていると、前にいたリンゴが目をこちらに向ける。


「アヤ、そろそろ目的地に着く。準備を整えて」


「分かった。でもカヤックさんが来てくれなかったの何でだろう」


「カヤックはもうここのスキル会得してる。だから来てもあまり意味がない」


アヤ達がなぜ森の中にいるのかというとスキルの会得にあった。PvPでより上位を目指すにはスキルが充実した方が何かと対処しやすく、PvPで有利になりそうなスキルをリンゴと一緒に手に入れるために来たのだが。


「私が来てもよかったのかな」


「ん、狂戦士でも相性いいスキルだから」


「いや、そうじゃなくて。私、レベル低いし、スキル全然ないし、攻撃力あまりないから足手まといだと思う」


「そんな事ない。道中のモンスターの動きについていけた。スキルはあとで増やしていけばいい。攻撃力はカヤックを一撃で倒せてたから問題ない」


「そうかな」


「ん、カヤックはディフェンス型の中で最上位に強い。普通の火力だとダメージ通らない」


「……ディフェンス型って確かDEFとRESがある職業のことだよね」


リンゴはこくりと頷く。PvPの話の中で出てきた単語を頑張って頭の中に叩き込んだ。STRとINTがある職業をアタッカー型、DEFとRESがある職業をディフェンス型、AGIのある職業をスピード型、スキルが豊富な職業をサポート型、そしてステータスがバランスよくある職業をバランス型と全部で五つの型がある。

それから様々な種類の職業が…………この話はまた今度にしよう。鬼気迫る二人の解説を思い返しただけで身震いしちゃうから。


「あ、そういえばリンゴの職業って何? やっぱり魔法を使う職業なの?」


勝手な予想だけど、魔女帽子を被ってるから魔法系なのかな。

リンゴはくるりと左足を軸に回転してこっちを向いて足を止める。


「私の職業は…………」


リンゴはその先を口にしようとすると、その声をかき消すように怒涛どとうの大声が響き渡る。


偽魔女えせまじょ! ここにいるとはどういう了見りょうけんだ!?」


アヤ達は声のする方に視線を向ける。そこには黒髪ボブヘアの和服少女が苔が生えた大岩の上で佇んでいた。和服少女は二階建ての高さがある大岩から飛び降りてアヤ達の近くに来る。


「久しぶり、堅物侍。あなたもスキル会得?」


相変わらずの無表情で挨拶をすると和服少女が茹でたタコのように顔を赤くして口を開く。


「私は貴様がなぜここにいるのか聞いている!」


「むぅ、それだから堅物侍って言われる」


「っ! 私は成績優秀だ! この前の全国模試は総合順位三十位以内に入っているぞ!」


「私は十位内入ってる。堅物侍より賢い」


「っっ!!!」


和服少女は地団駄を踏んで刀に手を掛ける。


「貴様にPvPを申し込む!」


「ごめん。今はデート中だから無理」


「デートだと!? 一体どこの誰と」


和服少女の視線がアヤに向いて、凛とした顔が唖然とした表情になる。少し間をおいてじわじわと頬が紅潮こうちょうする。


「き、貴様! 卜一八一といちはいちだったのか!?」


「と、といち……はいち?」


アヤは首を傾げるとリンゴが小声で説明する。


「簡単にいうと同性愛者。あの堅物侍が私達のことを同性愛者だと思っている」


「え、私とリンゴはそんな関係じゃないでしょ!?」


「私としては別に構わないけど」


「私が気にする!!」


口はわざわいの元。まさにリンゴがそれだ。

いま彼女の目には私達が同性愛者だと映っている可能性が高い。それは誤解だと説明しなければ彼女は私達を見る度にハレンチめ! と羞恥な目で見てくるかもしれない。もしもアイドルの私がそれがスキャンダルにでもなったら世間体にまずい。


「あの! 私達はそういう関係じゃありません! リンゴとはその……FFOで知り合った仲です! 別にそういう他意はありません!」


「…………そうなのか?」


和服少女は刀から手を緩めてじっーとアヤを見つめる。


「うん? そなた、あのガイアースを一撃で倒した駆け出しではないか?」


「え?」


彼女を見つめて脳内で一致する顔を探す。だけど全然引っかからず、眉を寄せて愛想笑いをする。


「ごめんなさい。あなたのような綺麗な人と会ってたら忘れることないはずなのですが」


「そ、そうか。こちらが一方的に覚えていただけで申し訳ない」


和服少女は刀から手を離してぺこりとお辞儀をする。途端、その仕草に見覚えがあり一人のプレイヤーの顔を思い出す。


「あ、思い出しました! ボスに一発ぶち込むことを勧めてくれた人です!」


「そ、そこを覚えているのか」


和服少女は顔が引き攣って気恥しそうに頬を指で搔く。


「む? アヤ、堅物侍を知ってるの?」


「えーと、PvEでちょっとね。まさかこんなところで再会すると思ってなかった」


「むむ、あの堅物侍が誰かの顔を覚えているのは珍しい。これはビックニュース」


「人の顔を覚えるのは普通だろう! 特にあの光景を見たら忘れたくても忘れられぬわ!」


「アヤ、何したの?」


「えーと、実はボスを一撃で倒しちゃって」


「それから?」


「っ! 私もその会話に混ぜろ!」


「ふ、堅物侍は寂しがり屋。ゲームの中でしかフレンドがいない」


「〜〜っっ!! 次会ったら絶対ぶち殺す!」


和服少女は般若の顔つきでパネルを操作しあと光の粒子となって消えた。


「……リンゴ、あの子とはどういう関係?」


「んーん、強いて言うならライバル? でもあっちが一方的に仕掛けてくるから何とも言えない」


……リンゴって口が達者だから色んな所で敵作ってそうだなぁ。下手したら裏の人達から目をつけられてそう。


「アヤ、あそこに座ればスキルを会得できる」


リンゴが指した場所はあの少女が最初に佇んでいた苔の大岩だ。


「あそこでスキルが会得できるの?」


「会得といっても条件がある。今回のスキルだとあの大岩で一分間正座すれば会得する」


アヤ達は大岩に登って正座する。少ししてピコンと音が鳴って画面が表示される。


常時コモンスキル〈瞑想〉を会得しました』


アヤはスキルの詳細を確認する。


瞑想:MP15消費

効果:固定でHP300回復する。まれにSTRとINTが30上がる。


何となくだけど唱えるだけで回復できるから強いと思う。本当に何となくだけど。


「リンゴ、そっちはもう手に入れた?」


「ん、ばっちり。これでPvP勝つる」


嬉しそうに口元を緩めて拳をグッと握りしめる。それが私には眩しくて自然と言葉が出てしまう。


「……リンゴ、どうしてそんなにPvPをやりたいの?」


楽しいから? 注目されたいから? 報酬を手に入れたいから? 強くなりたいから? どれもリンゴに当てはまりそう。ゲームだから当たり前なんだろうけど。

リンゴはこっちに向いて透き通る声色で言葉にする。


「生きてるって実感がするから。もちろん楽しい気持ちもある。でもそれよりもこうして体を存分に好きに動かせるって、生きてるって感じがするの」


リンゴは魔女帽子を取って膝の上に置く。


「今から現実の話するけどいい?」


「リンゴが話したいなら」


「ん、じゃあ話す。現実の私は体が貧弱。自慢じゃないけど枯れ枝みたいに脆くて、運動したら即倒れて病院行き。だから競い合えない、勝ち負けを味わえない、分かち合えない。でもFFOはこうして不自由なく動ける。私は生きてるって誰かにぶつけたくて、つい勝負しちゃう」


リンゴは立ち上がり、体を伸ばして一息ついてアヤに視線を移した。


「別に気にしなくていい。アヤはアヤでFFOをプレイすればいい。楽しく馬鹿らしく好きに暴れるのがゲームだから」


「……それってPvP催促さいそく?」


「む、しおらしい話をすればやってくれるかと思ったのに気が付かれた。やるね、アヤ」


「何となくね。リンゴって口が達者だから」


「むむ、アヤと試合で戦えたら楽しそうだったのに」


血に飢えた戦士かなっと心の中で声に出す。でもまぁほんのちょっとだけやってもいいかなと気持ちが浮かんでくる。どうせ休日にやることないからね。


「いいよ。PvPイベントに出る」


「ほんと!?」


リンゴはパッと目を見開いてアヤの手を掴んだ。だが、何かを思い出したかのように離して手を上げる。


「あ、危ない。ハラスメント警告されるところだった」


「それって女性同士でもあるの?」


「ん、嫌がられれば同性でも起こる。だからアバターにベタベタ触るの推奨しない」


「色々と規制があるんだね。でも私はそういうのあまり気にしないかな。あ、流石にしつこいと嫌だけど」


ファンの人達に何度か触られてるから慣れている。そのせいもあって握手するのに抵抗があまりないのだ。


「えーと、PvPに参加する件についてだけど、やり方ってどうすれば」


途端、リンゴの目の色が変わって鬼気迫る勢いで語り出す。


「まずイベントページに飛んで、それから参加するボタンがあるからそれを押して、ああ、アカウントがないと参加できないから注意…………」


それからしばらくリンゴの説明を正座しながら聞く羽目になった。痛みはないが精神的に痺れた感じがした。

それからイベント開催までリンゴと様々なスキル会得しにフィールドを探索した。

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