第11話 イベント告知
「ふ〜ふ〜ふん〜♪」
鼻歌交じりで笹川綾香はスキップしながら帰宅途中だ。
「久々の〜休日〜♪」
なんと私に三日間の休日が舞い降りてきたのだ! 最初はドッキリかと思って部屋にカメラが仕掛けられてないか探したほどだ。それを見ていたマネージャーが何か深いため息ついてたけどなんだったんだろう。
「ただいま!」
「ふ〜ふん、明日から何して過ごそうかな」
まずは疲れた体をお風呂で癒して、それからご飯食べて、歯を磨いて、布団にくるまって寝て…………あれ? 何か楽しいことあったっけ。
ガクッと床に膝がつき、自分の休日が虚無だったことに絶望を感じた。
「このままじゃあ私、寂しい人生送ることになっちゃう」
アイドルがあるだろと第三者からツッコミが飛んできそうだが、今の綾香はアイドル稼業から離れてプライベートな時間を過ごして心と体を癒したいのだ。
「……FFOやろうかな」
最初に思い浮かんだのがFFO。あのPvEから五日間やれてなかったし、素材をリンゴとカヤックさんに渡す約束してたしなぁ。
「よし、やるか」
報酬渡してそれから……行き当たりばったりも悪くないか。
私はVRヘルメットを被り、FFOにログインした。
◇◇◇◇
アヤがログインした場所は見慣れた初期地の噴水の場所だ。いつものことながら人が集まる場所なのだが、やけに人が多いような気がした。
「とりあえずカヤックさんの武具屋に行こ」
リンゴと一緒に行った時の記憶を頼りに武具屋に向かう。そして見たことのある看板を見つけてそのお店に入る。
「カヤックさん、いますか?」
扉を閉めてカウンターのある所に向かって歩いていると、テーブル席に見知った二人のプレイヤーがこちらに視線を移した。
「アヤ、久しぶり」
「お、久しぶりだなアヤ。全然来ないからてっきり追加報酬を手に入れられなかったと思ってたぞ」
「すみません。リアルが忙しくて五日間ログイン出来てませんでした。あ、追加報酬は手に入れてます」
「ちゃっかり入手してるのすげぇな」
パネルを開き、カヤックさんが求めていた素材を渡した。
「ありがとう。お礼にレアな装備スロットを渡すぜ」
カヤックさんからお礼の装備スロットを受け取って確認する。
『装備スロット【
『不壊:耐久値を無限にする』
アヤは画面を閉じてカヤックに話しかける。
「あの装備スロットって」
「ああ、防具や武器につけるスキルみたいなものだ。やり方は装備欄から付けれるぞ」
カヤックさんに教わり、私は防具に不壊を付けた。
「オッケーみたいだな。それじゃあ、作戦会議の続きといこうか」
「……作戦会議?」
首を傾げるとリンゴが先に口を開いた。
「実はプレイヤー待望のイベントが明後日ある。その名もPvPイベント」
続けてリンゴが口にしようとするが、カヤックがその間をついて口を挟む。
「FFO初のPvPはバトロワ形式でな。決められた人数が超大型のフィールドで同時に戦う、そんなイベントなんだ」
カヤックがパネルを開き、そのイベントページをアヤに見せる。
「何だか賑やかなイベントですね」
「まぁな。それでリンゴと話し合ってどう効率よくプレイヤーを倒してポイントを手に入れてランキングに入るか、思考していたところだ」
「ランキングですか」
リンゴ達の話によると、FFOは大型イベントをやるたびにランキングが出るという。この前のPvEだとボスに与えたダメージの累計だそうだ。だけどPvEのランキングに入っても報酬はなくて、称号だけ貰えるとのことだ。
「今回はランキングが高い奴が称号と報酬を貰えるんだ。しかもトップ10に入れば追加スロットやレアアクセ等が貰えるからそりゃ熱が入るわけよ」
「そうなんですか。ならトップ10入れるよう応援してます」
「……む? アヤ、PvPしない?」
「うーん……戦うの慣れてないし、FFOをプレイして日が浅いし、ゲーム知識も中途半端だから無理かなって」
「大丈夫! アヤなら勝てる方法がある! 固有スキルを使って殲滅させれる!」
「リンゴは一旦黙ろうか」
カヤックはリンゴの魔女帽子を勢いよく下げて口を塞ぐ。必死にリンゴは魔女帽子を取ろうとするが中々抜けず、じたばたする最中、カヤックが話を続ける。
「アヤの固有スキルは置いといて、今回のPvPイベントはルール上は誰でも勝ち目があるのは確かだ」
カヤックはページの詳細を開いてPvPのルールを語る。
『第1回 大型PvPバトルロワイヤル!
参加プレイヤーが超大型特設フィールドで同時に戦い合うバトルロワイヤル。なお参加人数が規定人数を超えた場合、Aグループ、Bグループ、Cグループ等に分けます。またランキング上位者には豪華報酬と称号を贈呈します。PvPルール詳細は以下の通り』
『一、意図的なバグ、チートを使用した場合、即刻退場。最悪の場合FFOアカウントの凍結』
『二、プレイヤー同士のチーミングが発覚した場合、即刻退場とする』
『三、プレイヤーのレベルは全員50に統一。なお職業スキルは元のレベルで覚えている職業スキルを参照する』
『四、プレイヤーのパッシブスキル、防具、武器は試合出場後は変更できない。待機場での変更は可能』
『五、試合で武器と防具が壊れた場合、試合中は基本的に復活しない。試合終了後、壊れた武器と防具は試合前の状態で戻ってくる』
『六、アイテムは回復薬3つ、魔法薬3つ、万能薬1つ、煙玉5つを所持。なお試合でのアイテム作成、入手、強奪が可能』
『七、15分おきに全プレイヤーの現在位置が10秒間マップに表示される。再表示はされない』
『八、一人倒すと10ポイント獲得。また試合が進むにつれてキル数が多い上位5名を試合中のプレイヤー全員に通知とマップに常に表示し、上位5名の誰かを倒すとそのポイント五割を自身に加算する』
『九、試合で死亡(デス)した場合、待機場に移動。5分後にイベント会場に戻る。また死亡(デス)するまでに獲得したポイントは失われない』
『十、試合時間は90分とする。試合終了までに生き延びたプレイヤーはボーナス500ポイントを獲得する』
アヤは一通り目を通して口を開く。
「気になったんですが、戦わなくても生き残ればポイントが貰えるんですよね」
「そこ気にするか。まぁ戦わなくても貰えるのは確かだが、ランキング上位に入るのは無理だろうな」
「上位の人達がキルした分稼いでいて、生き残る可能性が高いからですか?」
「その通りだ。普通にキルできる上位陣は大概生き残ることが多い」
「でも通知がくるからその分、戦うことが多くなって疲労しませんか?」
「精神的はするかもしれんが、身体的な体力は現実と違ってないからな」
「そうなんですか」
イベントページを見通しているとボサボサになった髪のリンゴが魔女帽子から抜け出す。
「カヤック、試合であったら覚悟しといて」
「望むところだ」
バチバチとお互いの視線がぶつかり合う。アヤはあたふたして、ふとあることが引っかかる。
「あの、通知っていつくるんでしょうか」
二人の視線がこちらに向いて先にリンゴが声に出す。
「それ私も気になった。通知時間を教えてくれれば作戦もっと練れるのに」
「俺は時間をあやふやにしといた方がいいと思うぞ。もしその通知時間が分かってたら、たとえ上位なのか分からなくてもその時間までに有利ポジに移動とか普通にありえるだろ」
「む、確かに。そしたら倒せるものも倒せなくなる」
「それによくよく考えてみればこの五のルールも基本的に、ていう部分が何かおかしいんだよな」
「脳筋。そんなに頭使って知恵熱しない?」
「単純なことしか考えてないから大丈夫だぞ? お前と違って……」
「二人ともそこまで! 今はPvPのことだけ考えよう!」
二人の間に割って入ったのはアヤだ。
話し合う度、口喧嘩に発展するのはアヤにとってあまり居心地はよくないものであった。
「リンゴ、挑発的な発言控えて! カヤックさんはリンゴに意地悪しないこと!」
まるで手のかかる子供を宥める母親のように強めの声を張る。二人は呆気に取られてアヤを見ていると、アヤが我に返って体を丸める。
「ふふふ、アヤお母さん」
いつも無表情だったリンゴの口元が吊り上がり、愛くるしさが際立つ。
「そ、それは二人が」
「いやーお袋に叱られた気分だったぜ。久々にお袋の顔を見に行きたくなった」
「うぅ……カヤックさんまで」
アヤが頬を赤らめると二人は申し訳なさそうに謝り、アヤを励ました。
「さて、色々と話が逸れたがPvPの話の続きをしよう」
「ん、そうしよ」
「……そうですね」
「アヤ、元気出せって。俺らが全面的に悪かったから今は前向きに、な?」
「それも……そうですね。何だかいじけててすみません」
「謝ることねぇよ。アヤが止めてくれなかったら拳で語り合うことになってたかもしれねぇからな。あと俺に対して敬語はしなくていい。こういうやり取りしてると何だか疎外感を感じちまうからな」
「……分かった。あとで敬語がよかったとか言わないでね」
「おう。これからもよろしく頼むぜ、アヤ」
「それはそうとアヤ。PvP出場する?」
「それはちょっと考えさせて」
「むぅー、明日までには決めてほしい」
「う、うん。分かったよ」
アヤ達はしばらくの間、PvPについて語り合い、小一時間ほど時間を潰した。
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