第15話 アヤとスミレと結果

私はしなやかに体を動かすのが得意だ。元々運動神経がいい方で常に体育で目立っていた。他にも原因があったかもだけど。

レッスンなどで柔軟に動き、体の可動域を把握していて最適な動作で俊敏に体を動かしスミレの斬撃を躱す。


「アヤ殿、中々やるな!」


「そちらこそ、スミレさん!」


大鎚の正しい戦い方は分からない。当てれそうな時に振っているだけだ。


「失礼承知であるが、アヤ殿はリアルで身体を常に動かしているのではないか!?」


こっちは斬撃を避けるの必死なのによく喋れるね。


「そうですね! 過労死しちゃうくらいに汗水垂らして動いてます!」


会場の熱気がヤバすぎて危うく熱中症になり掛けたこともあったよ。もう二度とあのステージでライブなんてするもんか!


「むう!?」


攻守逆転アヤが攻撃を仕掛ける。大鎚を刀で防ごうものなら割り箸のようにへし折られる。そうなれば攻撃手段がなくなるのでスミレは回避の一手に回り、アヤの攻撃を避けていく。


「スキル『迅雷剣』!」


隙を見てスミレは攻め手に回る。刀が青白い雷を纏い、アヤの脇腹を斬りに掛かる。アヤは大鎚を離して後ろに上体を反らし、紙一重で避ける。そのまま手をついて後転し、前屈みでスミレの懐に飛び込み、スミレのみぞおちに手の平を押し付けて声に出す。


「スキル『発勁はっけい』!」


スミレは勢いよく後方に飛んでいく。発勁は手の平を当てた逆方向に相手を飛ばすスキルだ。威力は少ないが間を取りたい時に使える。だが重量があると飛ばす距離が縮むため使いどころが限られるスキルだ。


「やるな!」


スミレは空中で一回転をして着地して刀を構える。一直線にアヤに向かってくる。


「スキル『竜炎斬』!」


炎を纏った刀を薙ぎ払い、辺りを火の海に染める。火に当たり過ぎると継続ダメージをくらうためアヤは火から遠ざかる。

しかし、それがスミレの作戦だと知らずに。


「っ!?」


気づくと壁際まで追い込まれていた。これ以上後ろに下がれず、大鎚を構えるとスミレはほくそ笑む。


「スキル『鬼神丿乱舞きじんのらんぶ』!」


斬撃が雨あられに飛んでくる。避けようとも限られたスペースで全てを避けるのは最早不可能で、アヤは最小限の被ダメになるように回避しつづけ、斬撃が止んだのを見計らってスミレに近づく。

が、スミレは後方に引いてアヤは一旦止まって間合いを取る。


「追撃しないのか?」


「何かありそうだったので」


「アヤ殿は警戒心が強くいささかやりにくい」


「ダメでしたか?」


「いいや、警戒心が強いということは隙がないのと同一。そういう者ほど闘争心が湧くものだ」


「……そうですか。私もその気持ち分からなくないです」


私はこの気持ちがようやくどんなモノか分かった。誰かと同じ土台で競い合うことが楽しい。現実だとそんなライバルも同僚も消えていった。

私だけがたまたま運よく売れて、鰻登りに人気になっていって、知人と疎遠になって最後は私ひとりになった。別に悲しくはない。ただ心が満たされない日々ばっかり続いた。でも…………今は違う。


「スミレさん、提案なんですが次の一撃で勝負を決めませんか?」


「ほう。それはいきな計らいであるな。しかし、なぜ故に?」


「本気で語り合いたいからです」


大鎚を横に構えて屈託のない笑みを浮かべる。


「……アヤ殿の心意気、しかと受け取った。ならばこちらも全身全霊の一太刀でいかせてもらおう」


スミレは刀を鞘に納め、すぅーと深呼吸する。途端、見えない何かに押さえつけられている圧迫感がして、スミレからただならぬ気迫が放たれていた。


「スキル『刹那せつな一太刀ひとたち』!」


スミレは鞘から刀を抜刀してアヤに飛びかかる。迷わず立ち向かっていく姿は一種の美と思えるほど絢爛けんらんだ。刀は紫紺しこんを纏いつつ刃が白金に輝きながら太刀筋を描く。

斬られてしまえば胴体が真っ二つになってしまうほど鋭い斬れ味だ。

アヤにはそれを耐えれるHPと防御力はなく、回避は宣言した以上できるはずもない。なら自分の最大威力を誇る矛でそれを打ち砕こうと正面を切った。


「スキル『激情の破鎚』!」


アヤは最後の一撃を叫ぶ。

本来なら三回使ってしばらくのあいだ使えないのだが、上手く時間を稼いだことで一時間のリチャ分が戻ってきたのだ。


「はぁあ!!」「ふん!!」


スミレに向かって大鎚を振り下ろす。

刀がアヤの首元を、大鎚はスミレの頭を、どちらが先に届くかお互い分からない。だが、それでもいいと二人は自分の攻撃を信じて撃ち込んだ。


ドカーーーン!!


轟音と共に煙だらけだった一帯が一瞬で吹き飛び、暴風が吹き荒れて辺りに震動を起こした。



『ゲームセット。これにて第1回PvPイベントを終了します。生き残ったプレイヤーの皆様は待機場に移り、しばらくしてからイベント会場に戻ります。なおその間にログアウトするとデータが破損する場合がございますので、ご注意ください』



アナウンスと共にプレイヤー達は光の粒子となって消えていった。



◆◆◆◆



イベント会場は盛大に盛り上がっている。大鎚が邪魔で前に進めないので武器欄にしまい、人々の間を通っていく。


「アヤ、こっち!」


聞き覚えのある声がしてそっちに足を運ばせる。少し開けた場所に出て目の前にいる魔女帽子の少女に話しかける。


「リンゴ、試合どうだった?」


「ん、血湧き肉躍った」


無表情ではあるが、雰囲気がご満悦なリンゴにアヤは口元を緩める。


「そっか。私も楽しかったよ」


「それは良かった。でもアヤと会えなかったの心残り」


「私も探したんだけどね。でも成り行きで上位5名に選ばれてびっくりしちゃった」


「む、アヤはAグループだった?」


「えーと、Bグループだったよ」


「じゃあ会えない。私はAグループで上位取ってたから」


「それはすごい! リンゴ、かなり強いんだ」


「ん、私は強い。でも、もっと強いプレイヤーがいて順位あがらなかった」


リンゴは悔しそうに頬を膨らませ、シャドーボクシングする。

少し時間が経って狐幼女が噴水の上空に現れた。


『皆さんお待たせしたの! それでは結果発表なの!』


ざっと100位から31位のプレイヤー名は目に追いつけない速度で流れていく。

グループごとではなく、ポイントが高い順に並んでいるので総合順位だそうだ。


「あ、カヤックさんの名前がある」


「む、20位。脳筋にしては頑張った方」


カヤックさんがいたら喧嘩になってたなぁと心の中で思いつつ、ゆっくりになっていくスクロールを眺めて胸がざわめき始める。

そしてトップ10の発表になって会場のどよめきが高まっていく。


『10位:ドラネコ 様』


『9位:トンコツ 様』


『8位:ノワール 様』


『7位:LLINN 様』


『6位:リンゴールド 様』


見覚えのある名前が出てその名前に向かって手を指す。


「リンゴ、6位だね」


「むぅー、もっと上になりたかったのに」


リンゴは眉をひそめて悔しそうに歯を食いしばる。次にトップ5の発表になると、どこかで聞いたようなドラムロールが流れる。


『5位:月見酒 様』


『4位:シャーロン 様』


いよいよトップ3の発表になって会場は緊張の渦に包まれた。


『3位:社畜屋ツル 様』


『2位:アヤ 様』


『1位:ライジン 様』


『これにて、順位発表を終わりなの! 見事ランキングに載ったプレイヤーは後日、報酬がメールに届くから忘れないで確認するの!』


花火が打ち上がり、会場は爆発音と歓声の音のオンパレードに包まれる。

その中で微かにリンゴの声が聞こえてくる。


「アヤ! 2位だよ2位!」


無邪気な子供みたいにはしゃぐリンゴにアヤは放心状態で、魂が戻った頃にはリンゴに首人形のように頭を揺さぶられた。


「あ、ああ……2位」


マジか。私、結構ポイント取ってたんだ。

…………いやいやいやいやいや! 目立ってる! めちゃくちゃ目立ってる! なに、ゲームでも目立ちたいのか私は!!?!


「ア、アヤ。大丈夫?」


ガクッと四つん這いになったアヤをリンゴは心配になる。


「だ、大丈夫。ちょっと偏頭痛へんずつうがしただけ」


ゲームにそんな機能はないが今のリンゴはあまり冷静ではなかったので、なぜか納得してしまう。


「そ、そう。なら体を休めた方がいい。ログアウトしてぐっすり眠ると体調良くなる」


「……うん。そうする」


ログアウト画面を表示させてリンゴに向かって手を振る。


「それじゃあ、また」


「ん、また会ったら色々とお話しよう」


早々にログアウトをしてアヤはFFOから去った。



◇◇◇◇



VRヘルメットを取って私はベッドの上で大の字になる。


「目立っちゃったなぁ」


元を辿れば私が原因だけどね。だから目立ちたくなかったんですと言い訳しても全く意味ない。


「……まぁどの界隈でも2位より1位の方が目立つから大丈夫かな」


皆んな最強の方が目にいくからね。私なんておまけみたいなものだから2位の人だくらいにしか思われないでしょ。


「でも楽しかったなぁ」


色々あったけど気分が軽い。こんな気持ちが続けばいいけど明後日からレッスン三昧でそうも言ってられない。


「今日くらい奮発してケーキ買いに行こう」


諭吉はいないけど、英世が四人いるので少し高めのケーキなら買える。

私は身体を起こし、扉を開けてケーキ屋に向かった。その頃、FFOでアヤに二つ名が付いていると知らずに。

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