第7話 チュートリアル

着替え方はボタンを押すだけで変わるというので、現実でも欲しい機能だなと思いながらパネルを表示させる。


『新しい防具に着替えますか?』


はい、と押すと持っていた防具が光の粒子になって体にまとわりつく。



頭〈天龍の髪飾り〉

天龍の産毛から作られた髪飾り。染まることのない白銀の産毛は所持者に安らぎを齎すという。

​───【ステータス】​───

STR:50 HP:200 MP:20

防具スロット〈1〉

〈​──〉


腕〈天龍の手甲〉

天龍の牙を加工した手甲。装備するだけで怪力を生み出すという。

​───【ステータス】​────

STR:100 HP:100

防具スロット〈1〉

〈​──〉


胸〈天龍の上衣〉

天龍の鱗を織り交ぜた上衣。持久力と活力が漲るという。

​───【ステータス】​───

STR:50 HP:500

防具スロット〈1〉

〈​──〉


腰〈天龍の下衣〉

天龍の髭から作られた下衣。動きやすく活力を高める。

​───【ステータス】​───

STR:50 AGI:20

防具スロット〈1〉

〈​──〉


足〈天龍の革靴〉

天龍の皮を鞣し作られた靴。天龍の如く俊敏に動ける。

​───【ステータス】​───

STR:50 AGI:30

防具スロット〈1〉

〈​──〉


アクセ〈​──〉



『天龍シリーズの効果:全ステ5%アップ』



ステータスが表示され、確認したあと画面を閉じて試着室から出る。


「どう……ですか?」


着替え終えたアヤは恥ずかしながらもリンゴ達に新装備をお披露目するとリンゴが目を輝かせてサムズアップした。


「ん、妖精みたいに可愛い。そして恥じらいもあってさらに高得点。これなら男共を悩殺できる」


「あ、うん……そう」


現実で何度か体験してるからそれは勘弁かな。視界の端にあった全身が映る鏡を見てくるりと回転して着心地を確かめる。


「アヤ、次はこれ……ふぎゅ!?」


「ファッションショーなら他所でやれ」


カヤックがリンゴの魔女帽子を下ろし、リンゴの口を塞ぐ。


「どうだ? 気に入ったらそのまま着ていいぞ。もちろん代金は払ってもらうが」


「カヤック、魔女の帽子で窒息死させるつもり?」


リンゴは魔女帽子を天井に向かって押し出して脱ぐ。バサバサになった青髪を整えて、リンゴは目を細めてカヤックを見る。


「そんなのFFOは出来ないこと知ってるだろ? それより武器と防具の代金きっちり払ってもらおうか」


カヤックがこちらを向いてアヤはさっき貰ったばかりのお金を渡す。最終的に手持ちに残ったのは10万ギルだけだった。


「本当だったら全額払ってようやくってとこだ。初回割引としてまけておく」


「あ、ありがとうございます」


「さて。新しい武器を手に入れると性能を試したくなるのが人のさがってもんだ。アヤも試したくてうずうずしてるだろ?」


「そうかもです。ラックスライムをどれだけ狩れるか試したいですから」


「ラックスライムは硬いから無理だと思うが……まぁいい。こっちに専用の演習場があるからついてきな」


カヤックは何か操作したあと店の奥に行き、アヤはそのあとについていく。一本道の先に小洒落た扉があってカヤックはその扉の前に立ち止まる。


「アヤ、確認だが腰を抜かしたりするなよ」


アヤは眉を寄せて声に出す。


「それは……どういう?」


「俺の武具屋を最初見たときどう思った? 正直に答えていいぞ」


「えーと、ちょっと古い隠れ家っぽい店だと思いました」


「そう思った奴らはたいてい腰を抜かして放心状態になってた。まぁ見た目が小さな店だからそれがあるとは思っていないのも仕方ないんのは分かるが」


「カヤック、分かるようにアヤに説明」


「ああ、悪い。つまり見た目に騙されるな、中身は案外広いぞ、だ」


アヤの頭の中は疑問だらけで、リンゴがため息をつく。


「私が説明する。今から行くところコロシアムのように広い。つまり青狸のあのドアを使って移動するような感じ」


「あ、ああ何となく分かった」


リンゴはカヤックに向かって自信満々に鼻息をつく。カヤックは眉間に皺を寄せるが、首を横に振ってドアノブに手を掛けて開ける。

そこは現実ではありえない空間が広がっていた。

家の中に青空があり、石柱と石壁が円状に囲んでいて、走って往復五分くらい掛かり広々とした場所だ。


「アヤ、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です。ちょっと見惚れてただけですから」


「ははは! それは愉快な発想だな。だが、そんな暇はもうないぞ」


カヤックがパチンと指を鳴らす。すると近くに藁のカカシが現れる。


「まずFFOの基礎の基礎スキルを教える」


カヤックはそういうと空中に指をスワイプさせる。すると短刀と大盾が出てきて両手に装備した。


「まずは汎用コモンスキル。これは誰でもどんな職業でも使えるスキルだ。MPを消費して使うタイプだからMP切れになると使えないからよく考えて使え」


カヤックはカカシに短刀を構えて声に出す。


「スキル『炎剣』!」


短刀が火を纏い、カヤックはカカシに短刀を振り下ろす。カカシは斬れ口から火が広がり全身灰となって消えていった。


「これが汎用スキル。どんな状況になってもMPさえあれば使えるし、属性相性のある敵なら弱点を狙えるのが魅力的なスキルだ。だが汎用性が高い分、威力や効力が低い」


質問あるか? とカヤックが訊いてくる。


「あの、属性相性って木の敵なら火とか、火の敵なら水とか、水の敵なら木みたいな感じですか?」


「だいたい正解だ。FFOには属性が五つあって順に火、水、雷、地、風がある。ああ、今は分からなくていい。そういう属性技があるってことだけを頭の隅っこに置いといてくれ」


アヤは頷いてカヤックは説明を続ける。


「次に職業クラススキルだ。これはその職業にしか覚えられないスキルで、効力や効果が汎用スキルと違ってやや高い」


カヤックは大盾を構えてすぅーと息を吸う。


「スキル『鉄壁の布陣』!」


大盾が青白く輝いてカヤックを中心に半径十メートル程の光る線が円状に広がる。


「これが職業スキル。この円の中にいると味方に俺のDEFの一部を付与できる。ちなみに俺の職業は守護者ガーディアンといってDEFとHPに特化したタイプのディフェンス型だ。かなり硬いからINT攻撃でない限り倒れることはない」


「へ、へぇ……そうなんですか」


何だか頭がこんがらがってきて、アヤが唸っているのを横で見ていたリンゴが口を開く。


「カヤック、頭で覚えるより体で覚えた方がいい」


「まぁ薄々それがいいと思ってたけどよ。相手はお前がするのか?」


「カヤックがやって。肉壁はカヤックが適任」


「嫌な役回りだな。まぁやるけどよ」


カヤックは神妙な表情になりながら空中で何か操作するとアヤの目の前に白いパネルが現れる。


『カヤックからPvPを申し込まれました。対戦しますか?』


「……え、戦うんですか?」


「こうしないとプレイヤー同士戦えないからな。ああ、本格的に戦うわけじゃないぞ。あくまでスキルの使い方を覚えるのが目的だ」


アヤはリンゴの方に視線に移す。


「大丈夫、私もやるから。もちろんアヤの味方として」


「いや、そうじゃなくて……PvPって確か殺し合いをするんでしょ?」


アヤのFFOの知識はほぼ皆無であるが、昔やったゲームにPvP対戦モードがあった。プレイヤー同士が戦い、タイムが切れるか相手が死ぬまで終わらないデスゲーム。最初何なのかよく分からず、興味本位に入ってみたらボコボコにされたのを記憶に鮮明に残している。それ以来アヤはゲームに一切手をつけなくなった。


「捉え方としてはそう。だけど現実で死ぬことはない。ゲームだから死んでも生き返る」


「いや、でも……」


「戦うことが嫌なら無理しなくていい。FFOはプレイヤーと戦わないプレイもできるから。でもプレイヤーと戦って自分の気持ちをぶつけ合うのもFFOの醍醐味」


アヤは呆気にとられてリンゴを見つめる。だが同時に戦う楽しさがどんなモノか微かに好奇心がくすぐられた。


「分かった。やってみる」


「ん、何事もやってみるのが一番」


アヤは『はい』とボタンを押して大鎚ウォーハンマーを構える。カウントダウンが始まり、アヤは無意識に口元が緩んだ。

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