第6話 新武器

スライムかって800まん?

うわーすごいがくだぁ〜これならワンホールケーキたべほうだいだぁ〜。


「アヤ、起きて。起きないと私が頂く」


「ちょ、それは私のケーキ!」


ガバッと勢いそのままテーブルに額をぶつける。


「あぅ……痛い」


痛感はないが痛い感じがした。幻肢痛げんしつうってやつだろうか。


「アヤ、冗談。アヤの財産はアヤのもの。だから心配しなくていい」


リンゴは小さく小悪魔な笑みを浮かべて人差し指を唇に当てる。視線をカヤックに向けてリンゴはジト目で見る。


「カヤック、それって正当な値段?」


「当たり前だ。騙して揉め事起こすよりちゃんと相場価格で出した方がいざこざがないからな」


お前と違ってなとブツブツと口にして金属の擦れる音が鳴る袋を取り出す。


「締めて800万ギル。おまけでここにある装備を一回だけ一割引にしとく」


「半額にしよ。その方がアヤのふところが潤う」


「俺の懐が寂しくなるのを気にしろ」


「むぅー、なら八割引きで手を打つ」


「半額よりダメだそんなの!」


「あの、私は別に割引とかいいんですけど」


お互い睨み合っていた二人はアヤの方に視線を移して、リンゴは頬を少し膨らませ、カヤックは女神を見るように涙を流す。


「いや、見苦しいとこ見せてすまなかった。とりあえず話を戻すが、店にある武器を好きに選んでくれ。それとアヤに合うようにカスタマイズもしとく」


「いや、でも……」


「アヤ、ご厚意に甘えるのも大事」


「お前は厚意に甘えすぎだがな」


またお互い睨み合って、アヤは慌ててリンゴを引っ張って様々な装備が並ぶ陳列棚に連れていく。


「リンゴ、私に合う武器を見繕ってほしいんだけどいい?」


「ん、装備選びは私の得意分野。それと防具も見繕う。初期防具だと心もとない」


リンゴは嬉しそうに足を弾ませて武器を吟味していく。ただハンマー以外も見ていたので、たぶん目的を忘れているかもしれないがリンゴが楽しそうでアヤは口元を綻ばせた。


「アヤ、これはどう?」


リンゴが指した方向に呪いを凝縮したような大鎚が禍々しいオーラを放ってアヤは一歩後退した。


「これはちょっと」


「む、ならこれはどう?」


今度は呪詛のような御札が巻きついた大鎚を指して、アヤは首を横に振る。それからリンゴの厳選した武器を片っ端から見ていった。

だけど中々いいのが見つからず、店の端まで探してリンゴの顔が少し疲労気味になっていた。


「むむむ、これが最後。なかったら別の店で買うしかない」


ガラスケース越しにリンゴが選んだ最後の大鎚は事細かい銀細工が施され、打撃部の片方は平たく、もう片方は先が尖って見るからに殺傷力高めの雰囲気を醸し出している。しかし藍色と銀に彩られ、神秘的までに美しい見た目である。

アヤは吸い寄せられるようにその武器から目が離せなくなった。


「……これ。これがいい」


様々な装飾品や一流のデザイナーが作った服や小道具を何度も見ているアヤはそれなりに見る目が肥えている方である。そのデザインは記憶から該当するそれらと比べ物にならないほど美しく作り込まれたデザインだった。


「ん。カヤック、これをアヤに売って」


カヤックはアヤ達に近づいて目線の先にあったその武器を見る。


「〈星堕とし〉か。中々お目が高い物を選んだな」


カヤックはガラスケースから取り出してアヤに手渡す。


「詳細確認しな。ああ、やり方は武器を3秒間見続けることだ」


アヤは星堕としを見て詳細を確認した。



〈星堕とし〉

かつて名も無き英雄が星を堕とし、砕破させたという。永劫の刻が経とうとも錆びることなく今も主を探し続けている。

​───【ステータス】​───

STR:400

武器スロット【4】

【亡星の血脈​】​──???

覇砕はさい】​​──相手に500以上のダメージを与えた場合、その攻撃のみSTRを1.3倍にする。

〈怪力の証〉​──HPが50%以上の敵に与えるダメージを1.2倍にする。

不壊ふえ〉​──耐久値が無限になる。



アヤは首を傾げて口を開く。


「これって強いんですか?」


「かなり強い。不壊があって耐久気にしなくていいし、怪力の証も旨味だし、覇砕はSTRの高い職業が使えば問題ないし、それに未覚醒の固有スロットがあってまだ伸び代がある」


カヤックの未覚醒の固有スロットにアヤは頭を捻らせる。


「固有スロットって何ですか? 未覚醒ってなんですか?」


「簡潔にいうとその武器にしかない固有スキルみたいなものだ。ああ、未覚醒ってのはまだスキルが使えない状態なことをいうんだ」


固有オリジナルスキル……ですか」


「もしかして固有スキル知らないのか?」


「つ、使い方は分かります。けど固有スキルとか、職業クラススキルとか、汎用コモンスキルとか、常時パッシブスキルがどんなものなのか……さっぱり」


「まぁ初心者なら仕方ないか。よし、なら実戦も兼ねてFFOの基礎という基礎を教えてやろう」


「カヤック、まだ防具選びが終わってない」


リンゴが横から入ってきてカヤックは顎髭を弄る。


「それもそうか。じゃあリンゴ、防具選びよろしく頼む」


「りょ。アヤに合う防具選んでくる」


リンゴはそう言って俊敏な動きで防具の並んだ置き場に走っていく。


「カヤックさん、リンゴに防具選び任せて大丈夫なんですか?」


アヤはリンゴの防具選びに少し気がかりだった。何しろ武器選びでどれも見た目に難ありの物ばかりで、防具もヤバいのがくるのではと不安をつのらせていた。


「安心しな。リンゴは一度その人の趣味嗜好を理解するとそれに合わせて選んでくれる。もちろん性能も良いから俺もたまにお願いすることがある」


「そうなんですか。あの……悪気はないんですが、カヤックさんとリンゴは犬猿の仲なのかなと思っていました」


「傍から見たらそう見えるのかもな。FFOでもよく些細なことで言い争ってたりするし」


「……私、ここに居ない方がいいですか?」


「なんとなくアヤの考えてることが分かるぞ。だが、俺とリンゴの関係はそういうのじゃない。趣味仲間といった方が関係として正しい。それに……あまり現実のことは言っちゃいけないが俺は既婚者だ」


アヤは金魚のように口をパクパクとさせてカヤックの全身を見る。


「言っとくがあくまでゲームのアバターだからな。初期に多少弄りはしたが現実の俺とあまり似てない」


「あ、そ、そうですよね。変に想像してすみません」


「といってもだ。現実とあまり似せないようにゲーム側がアバターを作るんだが、多少なり似てる箇所があったりする。例えば……顔とかだな」


アヤはあるはずのない心臓が脈を打つ。まさか笹川綾香とバレたんじゃ……


「俺の場合は目と鼻だ。といっても現実と見比べないと分からんし、故意に似せない限り身バレすることはまずない」


アヤはホッと一息ついて胸を撫で下ろした。バレて楽しくゲームが出来なくなるのはなるべく避けたいからね。


「アヤ、この防具はどう?」


リンゴは防具が飾られたマネキンをそのまま持ってくる。アヤは上から下の順に防具を見る。上衣は白と紺を基調とした布生地で襟に金色の紋様が描かれおり、肩が見えるオープンショルダー、下衣はミニスカートの白いフリルをベースに可愛いを存分に活かし、黒タイツがより魅力をアピールしている。ソックスは黒く先端が魔女の靴のように尖っている。

架空の服ではあるが、それを現実で着て踊ってみたいと思ってしまうほどアヤは心が揺さぶられた。


「アヤ、どう?」


その問いにアヤの選択肢は一つしかない。


「これがいい。いいや、これしかない!」


性能なんてどうでもいいくらいにアヤはこれを着たかった。


「ん、気に入ってもらえて良かった」


アヤとリンゴがワイワイ喜んでいる中、隅でカヤックが「俺が手に入れた防具なんだけどなぁ」と呟きながら二人を眺めるのであった。

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