第8話 一撃必殺スキル

FFOでのPvPは最近実装されたものだ。元々FFOはPvEのプレイヤーとモンスターが戦うVRMMOだったのだが、ユーザーから多数の要望により追加されたコンテンツだ。

「装備を自慢したい」「競い合いたい」「プレイヤーと戦いたい」「パーティでの役割を特訓したい」「友人と拳で語り合いたい」「血の雨を降らしたい」……etc。

血に飢えた獣達が闘争を求めて、運営はユーザーの要望に応えて特定の場所限定でのみPvPを実装した。その反響はかなりのものでPvPのイベントが近々あるのではとユーザーの間でまことしやかに囁かれているほどだ。


「それじゃあスキルの続きだ。えーと次は常時スキルだったな」


カヤックは顎に手を当てて考え込む。


「この常時パッシブスキル、目に見えてすげーって感じのやつ、俺持ってないんだよな」


カヤックの視線がこちらに向く。


「アヤ、何か常時スキルを持ってないか?」


「あ、はい。死の淵に立つ者を持ってます」


「まじか。かなり会得するのが面倒いスキルなのに習得しているとは……本当に初心者か?」


「五日間しかやってないので、たぶん初心者かと」


初心者の基準って色々違うから絶対とは言えないけど、ラックスライムばかり狩ってたから他のモンスターのこと全然知らないし……初心者かな?


「五日間でそれを習得するのは才能がある。アヤは……いや、やめておこう。現実のことを聞くのは無作法だからな」


カヤックはそう言って咳払いをする。


「話を戻すが常時スキルってのは特定条件を満たした時にのみ発動できるスキルだ。だが、常時スキルはプレイヤーひとりにつき一つしか発動できない。その代わり特定条件を満たした状態だと常時発動できるのがメリットだ。アヤの死の淵に立つ者はHPが20%以下になると全ステータスが1.3倍なるから発動中は超火力が見込めるぞ」


カヤックはリンゴに合図を送ってリンゴはアヤに近づく。


「アヤ、手を出して」


リンゴに右手を差し出すとポケットから紫色の小瓶を取り出してアヤの手に一滴垂らした。


『毒状態になりました』

『毒:3秒間に1%ずつ自身のHPが減っていく。解毒薬等で治療可能』


「え!? 毒!?」


慌てて手を離して画面を見ると毒状態と書かれた文字が映し出される。


「アヤ、大丈夫。毒状態だけど死にはしない」


「いや待って。毒になるって聞いてないんだけど?」


「ハチに刺されるぞって言われたら普通は逃げるだろ? それと同じだ」


「それでも前もって言って欲しかったですよ!」


怒るアヤをどうどうと手を振ってカヤックが宥めようとする。


「悪い悪い。だが、こうする方がHPを確実に手っ取り早く減らせて死の淵に立つ者のスキルを発動できるんでな」


「それなら私の固有スキルを使った方が早いです!」


「まぁまぁ。HPが20%なったら解毒薬を渡すから」


納得がいかないながらもアヤはHPが減るのを見続けながらカヤックの話を聞く。


「毒状態について話すぞ。これはHPが1になるまで減り続けてる仕様だ。だが、それで死ぬことはない。が、厄介な状態異常であることに間違いない」


「……つまりHPが1なる前に早く解毒薬飲んだ方がダメージが抑えられると」


「その通り。それに解毒の汎用スキルもあるし装備スロットもあるから大して厄介じゃないんだが、MP切れや解毒できるポーションがないとほとんどの場合、HPが1になるからな」


「なるほどです」


「一応HPが1になったら解毒はするが、あまりおすすめはしない。なにせスライムの攻撃一発くらっただけで死んじまうからな」


カヤックはパネルを操作した後、空中から小瓶が出てきてそれをアヤに渡す。


「そろそろ解毒薬を渡しておかないとな。ああ、口につけて飲まないと解毒薬の効果ないから注意だ」


カヤックから解毒薬を受け取り瓶のフタを開けてゴクリと飲み込む。毒状態の表示が消えてホッと一息をついた。


「効果画面を見てみな。常時スキルが発動されてるはずだ」


言われた通り画面を見ると〈死の淵に立つ者〉が発動中と書かれていた。


「発動してます」


「それが常時スキルの効果だ。ほらなんだが力がみなぎってくるだろ?」


「うーん、体が少し軽くなった感じしかしないというか」


「とりあえずそれの感じを覚えておけば大丈夫だ」


カヤックは一息吸って大盾をこちらに向かって構える。


「最後に固有オリジナルスキルだ。これはFFOの看板とも呼べるものでな。そのプレイヤーのみが使える特別なスキルで、同じものは存在しない唯一無二のスキルだ。これがあるおかげでどんなプレイヤーでも自分の強さを見つけることができる。まぁそれでトラブルも起こったりもしたがな」


カヤックはどこか遠くを見つめて懐かしむように笑った。


「さて、今から俺の固有スキルを見せる。驚いて腰抜かすなよ?」


そう言ってカヤックはスキルを口にする。


「スキル『難攻不落なんこうふらく聖盾せいじゅ』!」


するとカヤックの周りに光の立体物が壁を作っていき、ホログラムのように一つの城壁がカヤックを中心に浮かび上がる。


「このスキルが発動中どんな攻撃も全て無効化だ。まぁ30分に1回しか発動できないのとスキル発動中は動けないデメリットを除けば最強の防御スキルなんだがな」


続けてカヤックは口にする。


「アヤ、攻撃してみろ。無論、手加減なしで頼む」


「いいんですか?」


「ああ、今の俺は無敵だからな。どんなスキルや攻撃でさえ無効化する」


「状態異常は効くのに? 30秒後には効果切れるのに?」


「外野は黙ってくれ」


リンゴは口を尖らせてアヤに視線を移す。


「アヤ、カヤックを全力で叩き潰して」


「え、う、うん、分かった」


人を叩き潰すのは気が進まないけど、カヤックさんはいま無敵だから大丈夫みたいだし。ならよく使用してる固有スキルを使って、ついでに残りHPとMP全部を消費して……よし。


「じゃあいきます。スキル『激情の破鎚』!」


私は大鎚を振り上げてそのままカヤックに向けて振り下ろした。金属の叩き割れる音が聞こえたと同時に大鎚が床にめり込み、大鎚を中心に亀裂が地面に走って光の粒子が迸った。


『勝者:アヤ、リンゴールド様。これにてPvPを終えます』


周囲に花火が打ち上がり、アヤは周囲を見渡す。


「……え? え? え?」


勝った? どういうこと?


「リ、リンゴ。なんか勝利したんだけどこれって何?」


リンゴに視線を移すとポカーンとした表情で虚空を見つめていた。


「……は!? いったい何を……あ、いやそれより!」


無表情だったリンゴが慌てて目をぱちくりさせてアヤの肩を掴む。


「あれ固有スキル!? どんなスキル!? 無敵状態でも攻撃当てれるの!?」


アヤは首振り人形のようにリンゴに振られて目を回す。


「おい、リンゴ。アヤを首振り人形みたいに振るんじゃない」


潰されたはずのカヤックが頭を掻いてゆっくりとアヤ達に近づいてきて、リンゴが目を見開いたまま少し早口で喋る。


「カヤック! どういうこと!? まさか固有スキルを解いた!?」


「そんなことして何のメリットがある。というか久々に一撃で死んだわ」


嬉しそうに口元を吊り上げてカヤックは顎髭をいじる。もちろん彼はMではない。自分のスキルを打ち負かした少女に興味を持っただけである。


「いやー正面突破で負けるとは思わなかった。いつも小狡い戦法で負けてるから久々の清々しい敗北で悔いがない」


何故か自慢げにリンゴを見ると、不服な顔つきでリンゴで睨む。


「不正なんてしてない。ちゃんとゲームにあるスキルを使って戦ってる」


「インキチ戦法ばかりで俺は納得がいかないがな。それよりもアヤを離してやれ」


目が回っているアヤをゆっくり地面に下ろしてリンゴ達は目を覚ますのを待つ。しばらくしてアヤが起き上がる。


「あれ? 私、寝ちゃってた?」


「FFOにそんな機能はない。それよりアヤ、教えて。どうやってカヤックのスキルを打ち破ったの?」


リンゴとの距離が目と鼻の先でアヤはたじろぐ。


「リンゴ、女性同士でもハラスメントしたら運営にBANされるぞ」


「むぅー、聞きたいこといっぱいあるのに」


「後で聞こうな。アヤ、困惑してると思うがスキルのこと聞かせてくれ。もちろんタダでとは言わん。色々とサービスするぜ?」


二人のキラキラと輝く瞳にアヤは断る言い分が浮かばなかった。

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