第3話 作業ゲー

アヤは殺戮の限りスライムを倒し続けた。

視界に映る度、親の仇と言わんばかりにハンマーを振り下ろし続けてゆうに百匹以上のスライムの屍の山を作り上げていた。


「だいぶ気持ちがスッキリした」


ひと仕事終えたように手でひたいを拭い、ハンマーを下ろした。


「さて。レベルどのくらい上がったかな」


あれだけ倒したらどのくらいレベルが上がっかな。


「レベル7か」


雑魚モンスターだからか、思ったよりレベルが上がっていないことにアヤは眉をひそめる。


「これなら経験値の多いモンスターを倒せばよかった」


ストレス発散できても達成感がしょぼいと逆にストレスが溜まる。これではストレス解消どころかストレス増産機として本末転倒だ。


「どこかに経験値の多いモンスターいないかな」


すると呼んだ? と言わんばかりに四葉模様の銀色のスライムが草むらからのっそりと姿を現した。


「またスライム? もう十分倒したからいいのに」


百匹倒しても疲労はないとはいえ、精神的に疲れる。


「まぁ倒すけど」


アヤの思考回路はスライム=敵=倒す、とパターン化されていた。

アヤはハンマーを高らかに掲げて銀色のスライムに叩き込もうとする。

すると銀色のスライムは黒い生物Gの如く尋常じゃない速さで草むらに逃げていく。


「あれ? 逃げられた?」


腰ほどの高さのある草むらを掻き分けて銀色のスライムを探しに行く。


「お、いる」


俊敏な動きから遅鈍な動きで銀色にキラキラと輝かせながら辺りを彷徨さまよっていた。


「よし、今度は息を殺して」


ゆっくりと近づき、ハンマーを横に振り払う。銀色のスライムに命中して勢いそのまま振り飛ばした。

しかし、スライムを一撃で倒せるはずの攻撃が銀色のスライムは形を綺麗に保ったまま地面にバウンドしながら着地した。


「な、倒せてない!?」


銀色のスライムはジグザグに俊敏に動き、また草むらの中に隠れた。


「むぅー、気持ちよくない」


爽快感がなくてちょっとストレスが溜まった。


「そういえば何かスキルあったよね」


ステータスオープンと口にして自分のスキルを確認する。


「激情の破鎚。これ使えば楽に倒せるかな」


スキルの使い方は…………ああ、なるほど。声に出せばそのスキルが発動する仕組みね。


「よし、そうとなれば」


次は倒す、と意気込んで銀色のスライムを探し続ける。そして呑気に散歩している銀色のスライムを見つけた。

アヤは今度こそ一撃で倒すため、気づかれないようゆっくりと近づき、ハンマーを握り締める。


「よし、スキル『激情の破鎚』!」


一寸の狂いもなくアヤはなぎ払い、銀色のスライムの体にハンマーをめり込ませる。

銀色のスライムはパン、と空中で弾けて黒いモヤとなって消えた。


『経験値629を獲得しました』

『レベルアップしました』

『ラックスライムの魔石を獲得しました』


アナウンスが頭に響いてきて、私はパネルを開き確認する。


「おおーレベルが12になってる。それにラックスライムの魔石? 何か見たことある名前だなぁ」


どこで見たっけ……まぁいいや。それよりあの銀色スライム倒すだけでレベルが12に上がったの美味すぎる。


「ふふ、そうとなればラックスライム狩り続けるぞ!」


拳を天に向かって掲げてラックスライムを倒すことに注力した。




それから他のモンスターも狩りつつ、ラックスライムを探し続けた。


「お、見っけ!」


草むらに三匹バラけてラックスライムがいる。しかし、激情の破鎚はあと二回しか使えないため、アヤはどうするか口元に手を当てる。


(うーん、倒すならまとめてがいいけどバラけてるから無理だよね)


一度、立ち止まって自分のスキルを再確認する。



激情の破鎚:残り2回 1時間経過で1回復(現実時間)

効果:防御、耐性、スキル効果無視の物理範囲攻撃。またHP、MPの消費量に応じて範囲、威力が増大する。



説明文を読んでピーンと頭に閃く。


「HPとMPを消費すれば範囲拡大できて倒せる!」


どのくらい消費すれば範囲に収まるか分からないけど、とりあえずMP全部使って多少オーバーしても倒せば問題なし。


「スキル『激情の破鎚』!」


ハンマーにMPが流れろ流れろと心の中で唱えてスキル発動させる。

するとハンマーが白く輝きだし、そのまま地面に叩き込む。メキメキと音を立てながら地面が割れて、周囲に強烈な衝撃波が走った。

ラックスライムは逃げることは愚か、衝撃波に巻き込まれて木っ端微塵に爆発四散して黒いモヤとなって消えた。


『経験値を獲得しました』

『レベルがアップしました』

『ラックスライムの魔石×2、ラックスライムの巣穴の地図を獲得しました』


「お、おお、思ったより結構範囲広かった」


ラックスライムがいた範囲から約三倍ほど地面が抉れていて冷や汗をかく。


「ま、まぁオーバーキルだけど、倒せたからよし!」


ラックスライムには悪いけど、獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすっていうし、手を抜いたらこっちがやられちゃうかもしれないから仕方ないよね。


「あと残り一回」


最後の一回を誰にくれてやるか。

考え込んでいると視界に一回り大きい赤色のスライムがプヨプヨとうごめきながら現れて、無数の色とりどりのスライムが群れをなして近づいてくる。


「死にたいのかな? なら全身全霊の一撃をお見舞してあげる」


最初で最後もスライム尽くしだったけど、ストレス解消剤としてとっても役にたったよ。


「スキル『激情の破鎚』!」


HPをほとんど消費してハンマーを大きくスイングに振って衝撃波を放つ。衝撃波は地面をごりごり抉りスライム達を見るも無残に吹き飛ばしてバラバラにしていく。

アナウンスが怒涛の如く頭に響き、しばらく鳴り止むことはなかった。


『称号【スライムの殺戮者】を獲得しました』

『職業スキル〈狂化〉を会得しました』

『職業スキル〈魔人殺し〉を会得しました』

『汎用スキル〈スライムキラー〉を獲得しました』

『常時スキル〈死の淵に立つ者〉を獲得しました』


と続いてようやくログが鳴り止む。


「終わった?」


途中から音声を切ってしばしログを眺めるだけの退屈な時間だった。

自分のステータスがどれくらいになったのか確かめると見間違えるほどに成長していた。


​プレイヤー名【アヤ】​

職業 [狂戦士]

Lv《 28 》

称号【​スライムの殺戮者】


​​───【ステータス】​───

HP〈1/580〉

MP〈0/76〉

STR〈198〉

INT〈8〉

DEF〈48〉

RES〈8〉

AGI〈162〉

LUK〈10〉

​───【装備】​────

両手〈鉄のハンマー〉

頭〈​──〉

腕〈​──〉

胸〈布の服〉

腰〈布のズボン〉

足〈​皮の靴〉

アクセ〈​──​〉

​───【スキル】​────

固有スキル【激情の破槌】

職業スキル〈狂化〉〈魔人殺し〉

汎用スキル〈スライムキラー〉

常時スキル〈死の淵に立つ者〉




アヤはまじまじと自分のステータスを見て声を漏らした。


「おお、結構強くなってる」


実感湧かないけど数値にしたらかなり伸びてる。どれくらい強くなったか確かめたいが、流石にHP1の状態で戦うのは……無茶かな。


「街に戻るか」


歩いて戻るの面倒いな。何かワープとかあったりしないかな。


「あ、初期地ワープできる」


ワープできる親切設計な運営に感謝だね。

マップに表示されたボタンを押してアヤは光の粒子となって消えた。

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