第2話 別世界
◇◇◇◇
辺り一面真っ白な世界に私が作られる。
だけどそれは私の体にある程度似たアバターであった。私の意識は第三者視点から見てるような感じでそのアバターを視界に捉える。
『アバター作成完了。このままゲームを始めれますが、アバター変更可能です。注意:身長は±10cmまで変更可能』
そんな機械音声が聞こえてくる。
「おぉ、ってこの子可愛い」
まるで自分ではないと思っているかのように笹川綾香はいう。
現実の薄い黒髪が対比するようにアバターの髪色はミディアムヘアの白髪、その中に瑠璃色の髪の毛が混じっており、瞳は藍染した深い青色であった。
顔の輪郭は現実とほとんど同じだ。元がよかったこともあり、美少女と呼ばれてもなんら不思議ではなかった。
「あ、これ私か。どうりで顔の形が似てると思った」
綾香はアイドルということもあり、何度も化粧をして自分の顔を飽きるほど見ている。多少の時間は要したが、それに気がついてじっーとアバターを睨みつける。
「結構可愛いな。自画自賛っぽくなっちゃうけどこの顔ならモチベ維持できそう」
ゲームだけどいい感じなんじゃないかな。
まぁ可愛いは正義っていうし、悪くないでしょ。
「よーし、ゲーム開始するぞぉ!」
しかし、通せんぼするかのように辺り一面、設定画面が並ぶ。正直、面倒くさくて選択肢の一番上にあった職業を選んで、あとはおすすめ設定にお任せしたのはいうまでもない。
『名前を記入してください。注意:16文字まで』
名前……名前か。そのまま笹川綾香を入力したら絶対ダメだと思うから名前の綾からとってアヤでいいや。
名前を記入すると確認事項が出る。とりあえず問題ないのでボタンを押した。
『では
すると画面がひとつ現れる。
効果:防御、耐性、スキル効果無視の物理範囲攻撃。またHP、MPの消費量に応じて範囲、威力が増大する。
固有スキル……正直何なのか分からない。前にやったゲームで憶測になるけど必殺技? みたいなものかな?
「まぁやってたら何とかなるでしょ」
為せば成るなさねばならぬ何事も成らぬは人との……ってああーもうログインしちゃえば何とかなる!
ボタンを押して真っ白な空間に巨大な魔法陣が浮かび、視界が真っ黒に染まった。
◆◆◆◆
限定イベント『経験値の勧め』開催中!
始まりの草原、星降る荒地、珊瑚の丘でラックスライム出現率2倍!
レアアイテムドロップ率1.5倍!
さらにラックスライムの巣穴の地図のドロップが増加!
調合成功率20%増加!
パーティで1.2倍経験値増加!
残り期間5日1時間18分まで
街の中央噴水の上に堂々と円状の半透明の白いパネルがゆっくりと回転している。
そこは様々なプレイヤー達の憩いの場でイベントに参加する者、パーティを組む者、ボスに挑む者、新たに冒険する者と目的を持ったプレイヤー達がそれぞれいる。
そしてまた新たにプレイヤーがここに一人降り立った。
『システムオンライン:正常』
『プレイヤー名:アヤ ログイン完了しました』
機械音声と共に中央噴水に光の粒が集まって少女のアバターが現れる。
「うん? おおー、ここがゲームの世界」
視界に広がる街並みとプレイヤーと思しき人物が行き交う光景にアヤは感動を覚えた。
「すご。というかゲームの中なのに匂いあるんだけど」
水と湿った土の匂いがふんわりと漂う中、手を握ったり開いたりして感覚を確かめる。
「現実とほとんど同じっぽい」
なんだか現実から別の世界に連れてこられた気分だ。普通なら驚いたり放心状態になったりするかもしれないが、現実から切り離された世界にアヤの心は少し興奮気味になっていた。
「よし。まずは操作から」
説明書の通りならば声に出して画面を呼び出せるはず。
「ステータスオープン」
すると半透明の白いパネルがアヤの目の前に表示される。
プレイヤー名【アヤ】
職業 [狂戦士]
Lv〈 1 〉
称号【──】
───【ステータス】───
HP 〈100/100〉
MP〈20/20〉
STR〈30〉
INT〈5〉
DEF〈10〉
RES〈5〉
AGI〈20〉
LUK〈10〉
───【装備】────
両手〈鉄のハンマー〉
頭〈──〉
腕〈──〉
胸〈布の服〉
腰〈布のズボン〉
足〈皮の靴〉
アクセ〈──〉
───【スキル】────
と書かれていて如何にもゲームらしいステータス画面であった。
ゲームのおすすめにしたから普通にプレイできるとは思う。けど……何からすればいいかさっぱりわからない。
アヤは首を捻って考えているとふと噴水の上空に浮かぶパネルを見た。
「限定イベントか。初心者でも大丈夫かな」
画面操作でイベントに関する情報を見ると誰でもできると書いてあったので、アヤは鼻息を深くついてマップを表示させる。
「一番近くの始まりの草原に目標をつけて……よし、いこう!」
足元から金色の光が始まりの草原の近道を示すと、アヤはそれを辿って走り出した。
街の門を潜って始まりの草原に出るとそこは見渡す限り青々と生い茂った草花が擬似太陽の光を浴びてそよ風に揺られていた。
「おおーこれがプラセボ効果ってやつ? いやあれは偽薬か」
一人ツッコミを入れてどこまでも続く草原を淡々と歩いていく。すると現実には存在しない未知の生物がプヨプヨと丸い形を保ちながらアヤに近づいてくる。
「うん? 何このスライム」
水色に変な模様がついたスライムはゆっくりと体を縮ませて、アヤに向かって飛びかかった。
「な!?」
アヤは反射的に体をのけぞらせて顔面直撃コースから逸れる。運動神経がよくレッスンを欠かさずにやっていたおかげで成せる技であった。
「こわ!? 襲ってくるの!?」
敵だから当たり前だろと他のプレイヤーがいたらツッコミを入れるだろうが、
「まぁいい。襲ってくるなら攻撃しちゃって構わないよね」
背負っていたハンマーを頭上に掲げて、スライムのいる地面に目掛けて叩き込む。メキッと地面が音を立てて潰されたスライムは液状となって重力に従って流れていく。
『経験値5を獲得しました』
『スライムの液体を獲得しました』
アナウンスと共にスライムは黒いモヤとなって散り散りに消えていった。
「少しスッキリした」
いつも無茶ぶりしてくるマネージャーを想像して叩き込んだら案外スッキリした。これなら現実で発散できなかったストレスをマッハで発散できそうだ。
「よし。このままスライムを殲滅してやる」
当然そんなことは不可能だが、彼女はそれをやり遂げてしまいそうな勢いでスライムの群れに飛び込んでいった。
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