第11話 元入所児童の行方は、誰も知らない。

 二度にわたる、元養護施設入所児童の「行き倒れ」。


 それは、群れさせられた中で育てられ、突如群れの外に飛び出したつもりで、しかし実態は放り出された羊の行きつくべくして行きついた場所。

 そうとしか、言えまい。

 幼少期の彼を「群れさせた」者たちは誰一人、その責任をとっていない。

 ひょっとすると彼は、旧態依然たる養護施設が「措置費」という名の国からの金を受取るための出汁にされ、使い捨てられた「犠牲者」なのかもしれない。


 山崎指導員は、気持ちの上では割切れなさを感じるものの、責任問題に関しては、割切って対応するしかなかった。

 彼は、旧知の警察官の要請を、今度も断った。


 品川さん、申し訳ないですが、うちとしましても、宮木正男の面倒は、これ以上見切れません。彼がよつ葉園を退所した経緯は、今までお話したとおりです。

 そういう事情もありますし、うちとしましては、これ以上関知できません。

 姉夫婦と父親の連絡先はお教えした通りですから、そちらにもし、何かあれば言ってやってくださいますか。

 すみませんけど、そういうわけで、身元引受の件は、どうかご勘弁ください。


 やっぱり、な。そう言いたくなるような空気が、双方の電話口に漂う。


 そうだろうなと思っていました。

 私どもとしましても、それ以上のことをよつ葉園さんや、まして山崎先生個人に要求する法的権限もないですし、仕方ありません。とりあえず、こちらで何とか処理します。よつ葉園さんにも山崎先生にも、ご迷惑はおかけしません。お忙しいところ失礼いたしました。また何かありましたら、よろしくお願いします。


 品川克也警部補は、豊岡中央署の高田警部補以上に、あっさりと引下がった。


 このときもまた宮木正男青年は、大阪までの旅費を市役所の福祉関係の部署で借りて、父親のもとへと戻っていった。

 元よつ葉園児でもある4歳上の実の姉と、彼女と同い年の夫は、ふがいない弟(義弟)とは、この時点ですでに義絶していた。

 とりあえず、父以外に頼る相手は彼にはいなかったから。


 その後彼は、ホームレスになったのか、それとも、知己を得て生活保護を受給して、憲法の謳う「健康で文化的な最低限度の生活」が送れるようになったのか。

 養護施設出身者でホームレスになる割合は、それなりに高いという。

 それでも、運が良ければ、後者の生活ができているかもしれない。


 いずれにせよ、宮木正男という人物の情報は、その後、岡山の関係者には誰にも入って来ていない。

 彼の「学友」だった者たちにも、彼を教えた教師たちにも。

 さらには、「同じ釜の飯を食った」元職員や卒園生と称される元児童たちにも。


 養護施設よつ葉園元入所児童・宮木正男の行方は、誰も知らない。

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