第41話 愛執
シユは珍しく、明け方早くに目を覚ました。外はまだ薄暗く、静かだ。
中庭へ行くと、テイカがもう起きていて、剣の修練をしている。
正面の渡り廊下の向こうに、ギヨウが見えた。どこかから、帰って来たようだ。
朝まで何してたの?
シユは急に、落ち着かなくなった。
ギヨウがこちらに向かって来る。シユは自室へと走り、寝台の下に潜り込んだ。
息を潜めてじっとしていると、視界の先に、ギヨウの深衣の裾が見えた。
どこへ行った?
ギヨウは、シユを探している。
ギヨウが後ろを向いた瞬間、シユは寝台の下から抜け出て、その背中に枕を投げつけた。
ギヨウは振り返り、枕を拾って、シユの方へ歩み寄る。
シユは、部屋の隅に追いやられた。ギヨウに腕を掴まれ、逃げられない。
「…私は誰のものでもない。私のものですらないのだ。それが理解できないか?」
シユは、勘違いをしている。夜半に叩き起こされ、本殿へと赴いた。
「こちらのお部屋です」
宮女に案内され、中に入ると、夜着姿のギケイが居た。
腕の中に、女を抱いている。女の顔は蒼白で、手はだらりと垂れ下がっている。
ギケイの正妃と妾たち、それぞれの間には、長年、確執があった。
それもそのはず、皆、政略結婚の上、生家の勢力争いが熾烈だからだ。
うまく対処していると思っていたが、内実はどうだったか。
ギケイは、疲れた顔で言った。
「お前は東へ行け。私との約束を果たせ」
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