第40話 跡取り

「そろそろ到着される頃かと」

声を掛けられ、老女は振り返った。


最近よくこうして、屋敷の一番高い建物から、王都の方角を眺めている。


あの子には非がないのに、また、辛く当たってしまった。


だが、あの子が結婚し、子を授かれば、ゴ家は跡取りを迎えられる。


シユはいらない。ただ、引き合いに出しただけだ。


昔、王都へ赴き、施薬院を覗いた。離縁した元夫に逢いに行ったわけではない。


ゴフが外へ出たのを見計らい、中へ入った。背の高い少年と小さな男の子がいた。


客を装い、注文を口にする。意地悪をして、珍しい薬草の名前を言ってみた。


「もうすぐ、店主が戻りますので」

少年が、言った。


「急いでるのよ。どうにかできない?」

それを聞いて、小さな男の子は、店の裏の方へと姿を消した。


これがシユ。背は低く、痩せこけている。腕は、棒切れのような細さだ。


少しして、シユは、一つの瓶を持って来た。蓋を開けてみると、確かに注文した薬草だ。


まだ幼いのに、その知識には驚いた。だが、それ以外は、至って普通の子に見えた。


「失礼します。ハクエイ様が参られました」

老女は、顔を上げた。これから数日、気を抜けない。


ハク家は、昔から王家に仕える貴族だが、ハクエイの父の代で、破産寸前に陥った。


王都内にあるハク家の屋敷は、今もハク家の人間が住んでいるが、ギヨウの持ち物だ。


「今行くわ。熱いお茶を入れてちょうだい」

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