第39話 寝言

シユは、体調を崩して寝込んでいた。そんなシユの寝顔を、テイカは見つめている。


酒楼でシユがふざけて、見知らぬ青年と戯れるのを、目の前で見ていた。

 

命に関わる時以外は放置で良い、と言われているから止めなかった。


「ハクイン様が来てます。寝ていると伝えたのですが」


テイカは渋々立ち上がって、離れの入り口にある中庭に向かった。


「誰も通すなと言われている」

「俺は例外だ」


一歩踏み出したハクインの前に、テイカは立ち塞がる。ハクインは舌打ちをした。


「これ、シユに渡してくれ。渡せば分かる」

ハクインが、小袋を投げて来た。


テイカは、右手でその袋を掴んだ。固くてずしりと重い。銅銭か?


用事は済んだようで、ハクインはあっさり引き下がった。


シユの部屋に戻ると、シユはまだ寝ている。

部屋は先程、突如、キレイになった。


というのも、見かねたギヨウが自ら、部屋を片付けに来た。シユは片付けが苦手らしい。


東殿は、人も物も少なくて簡素な感じなのに、この部屋だけ異次元だった。


シユの口が少し開いて、ぶつぶつ言っている。夢でも見ているのだろうか。


テイカは最初、耳に入ってくる寝言を、意味も分からず聴いていた。


しかし途中で、言っていることが理解できると気づき、驚愕した。


シユが口にしているのは、この国の言葉ではない。


テイカは、まじまじとシユを見た。誰にも言うつもりはない。


このことを話せば、自分の出自を明らかにすることになるからだ。

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