第32話 陰の実力者

獣は、雑木林を直進する数騎の騎馬を追いけている。


テイカは、その獣を後ろから追っていた。後ろ姿は、巨大な犬か狼のように思える。


本当なら、この場を立ち去るべきだ。巻き込まれて、何も良いことはない。


だが、確かめたいことがあった。刺客と剣を交えている時に、気づいたのだ。


この小部隊の中に一人、剣術の腕が飛び抜けている武官がいると。


林を抜けて、開けたところへ出ると、先頭を走っていた騎馬が減速し、獣に向き直った。


この得体の知れない大きな化け物相手に、一騎討ちを仕掛けるようだ。


馬が恐れ慄いて暴れ始め、同時に獣が、牙を剥いて襲い掛かった。


馬上で体勢を低くし、手綱を操りながら、うまくかわして、何度も背後を取る。


獣は体が大きい分、変則的で素早い動きについていけないようだ。


背や尻に剣を受け続け、確実に弱って来ている。武官は馬を降り、獣の前に立った。


大きく踏み込むと同時に、両腕で力強く、剣を振りかざす。


と思いきや、一瞬で角度を変え、弧を描くように、剣先を横に引いた。


獣の喉元から、毒々しい血飛沫が上がった。頭から地面へと崩れるように倒れる。


「お前は誰だ?」

しまった。油断した。後ろを見ると、別の武官が剣を構えて立っている。


刺客と対峙した際、凄腕の剣士の存在に気づいたのは、武官たちの方もだった。

 

「こっちに来てくれ、ハクイン」

その若い武官は、たった今、獣を倒した武官に向かって、声を掛けた。

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