第31話 そばにいるのに
シユは、壁にあいた小さな穴から、隣の部屋を覗き込んでいる。
「ほほぅ。他人の情事を覗き見とはな」
ギョッとして真横を見ると、シエヤンが別の穴から、中を覗き込んでいる。
「これやられたら、シユは壊れるな」
壊れる?!
「寝た子を起こさなければいい。ギヨウはそんな目で、お前を見てないだろ」
ギヨウが、祖母の屋敷へ顔を出しに行っている間、シユは宿屋で休んでいた。
シエヤンが来るとは聞いていなかった。それも急に隣にいて、心臓に悪すぎる。
「散歩行こうぜ」
シエヤンに連れられ、宿を出る。
王都より歴史のある街と聞いた。でこぼこの石畳の小道が、迷路のように続いている。
夕焼け空の下、シエヤンは、ギヨウの祖母の話をしてくれた。
「ギヨウの婆さんは、娘が王家に嫁ぐのを反対してた。さらには、ギヨウを産んですぐ死んじまっただろ。心底、無念なのさ。
血の繋がった孫なのに冷たくするのは、愛さなければ傷つかない、そんな風に考えているんじゃないのかな」
シエヤンは時折、小難しい話をする。シユには、よく理解できなかった。
宿屋に戻ると、ギヨウが先に戻っていて、シユは困った顔をした。
外に出るなと言われていたのに、外出したことがバレてしまった。
その夜、シユはギヨウの腕の中で、なかなか寝付けずにいた。
普段から言葉数の少ないギヨウだが、今日はさらに何も話さない。
肌が触れるほどそばにいても、遠くに感じた。こんなことは初めてだった。
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