第30話 猛獣

王都周辺で次々と猛獣が現れ、人々を食い殺している。噂は瞬く間に、国中に広がった。


ギケイの元にも、被害の報告が、毎日寄せられて来ていた。


不思議なことに、集まった目撃証言からは、その猛獣とやらを特定することが出来ない。


犬、狼、熊、虎、ついには貔貅と、架空の猛獣まで登場する始末だ。


ただ、黒幕は、大方予想はついていた。同じことが10年前、先王の代にも起こった。


その時は、国内の混乱に乗じて、東方の国が攻め入って来て、東部の拠点を奪われた。


正確に言うと、かつて侵略した敵国の領土を、奪い返された、とでも言うべきか。


その時の教訓から、今回は軍を動かすのはやめて、獣の首に賞金をかけることにした。


「…ギケィ…さま」

後宮の一室。一人の少年が悶絶している。


異国から入手した珍しい香を焚いて、試しに嗅がせているのだ。


ギヨウが西域で、朝廷の助言と異なる行動をしたせいで、面倒な調整に追われた。


この苦労を分からせる必要がある。結果良ければ全て良し、では済まない。


国益よりも、自分達の面子や損得が重要な連中なのだ。


入り口から、恰幅の良い年配の宮女が入って来た。


少年がそれを見て、盛りの付いた獣のように、女に飛び付いた。


しかし、宮女はびくともせず、少年の片腕を取ると、軽々と少年を背負い投げた。


「お戯れが過ぎますよ、ギケイ様。この子をどうするんですか、可哀想に」


床の上で伸びている少年を見下ろし、宮女はぼやいた。


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