第29話 二人の時間

川にさしかかり、一行は足を止めた。日差しが強く、汗ばむほど気温が上がって来た。


ギヨウは馬を降りて、シユの乗っている馬に近づいた。シユを下ろす。


前髪をかき上げると、おでこにびっしょり汗をかいている。


「少し休む」

ギヨウは側近たちに、声を掛けた。


負傷兵に輿を譲ると言って、馬に跨り、ここまでやって来た。


ギヨウは二頭の手綱を、側近の一人に渡すと、シユを連れ、森の中へと入る。


「次の街まで、もうすぐだ」

シユは、頷く。


薬都として有名なその街は、ギヨウの母方の一族が収めている。しかし。


できれば、立ち寄りたくなかった場所だ。迂回して、街へは行かないつもりだった。


木陰に入ると、暑さが和らいだ。小川のせせらぎが聞こえて来る。


シユは、どんどん行ってしまう。ついて行くと、その先に小さな滝があった。


苔むした岩肌を落ちていく滝の下には、透明な水をたたえる滝壺がある。


シユは一糸纏わぬ姿になり、滝壺へと飛び込んだ。


足が届かないようで、バタバタしている。ギヨウが手を伸ばすと、その手に捕まった。


「来て」

久しぶりにシユの声を聞いた。声が低い。いつの間にか、声変わりをしている。


ギヨウは深衣を脱いで、下穿きだけになった。静かに水へと入って行く。


立つと、首の上は水の外に出た。シユは、楽しそうに笑っている。


ずっと子供でいてくれたら。


そんなことをふと考え、ギヨウは自嘲気味に笑った。

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