第26話 敵わない

軍議を終えたギヨウが、シユに声を掛けた。

「出かけるから、荷物をまとめろ」


その日の夕方、シユはギヨウと二人で、とある屋敷へ来ていた。


「どれどれ。これがあの獣か」

「おちびさん、よく来た。ゆっくりしてけ」


シユは、頬を膨らませた。横にいるギヨウを見上げると、苦笑している。


自分は平均的な身長で、目の前の双子の老人よりは、だいぶ背が高い。それなのに。


ここにしばらく滞在すると聞いているが、シユの気持ちは浮かなかった。


案内された部屋に、ギヨウと二人きりになると、シユは寝台の上に、突っ伏した。


ハッと思い出して、慌てて起き上がり、ギヨウを見る。ギヨウは、窓の外を眺めている。


シユは再び、布団の上に顔を突っ込んだ。別に、この前みたいに殴られてもいい。


力でかなう相手ではない。何をされたって、受け入れるしかないのだ。


「疲れたのか?」

シユはそのままの体勢で、首を振る。


最近のギヨウは忙しく、ここに自分を置いたら、またすぐ行ってしまうのだろう。


ふと、自分の髪に何かが触れる気配を感じ、シユは身体を強ばらせた。


後頭部の結び目の辺りから、スーッと髪に沿って、ギヨウの手が降りてゆく。


もう自分には触らないのかと思っていた。最近、この手が伸びて来たことはない。


「夕飯の時間になったら呼びに来る。少し休め」


休息が必要なのは自分ではなく、ギヨウの方だ。そう思いながら、シユは目を閉じた。

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