第25話 山での暮らし

「右。もっと、右」

腕を伸ばし、山桃の実を取ろうとするが、下のハクインが、指示通り動いてくれない。


「そっちの方は無理だ。諦めろ」

言うそばから、シユが前屈みになる。


「うわっ」

ハクインの足元が崩れて、二人は崖の斜面を滑り落ちた。


シユがひょいと起き上がり、ハクインに手を差し伸べる。


無断で隊を離れ、緑深い山に籠った。見つかれば、今度こそ終わりかも知れない。


数年、牢の中で過ごすところ、罪を揉み消したのは、意外にも、あの男と聞いている。


それなのに、西域には行かず、逃げるようにここへ来た。シユも巻き込んで。


風が出て来た。シユも気づいたようだ。里へ行った時、物々交換で凧をもらった。


「待て。勝手に行くな」

山桃の入った籠を手に取り、ハクインはシユを追いかける。


ギヨウは遠くから、シユを見ていた。シユが、自らの意志で逃げたのだとしたら。


ギヨウの心拍は、異常に早まっていた。敵の大群を前にしても、こうはならない。


シユがギヨウに気づいた。次の瞬間、こちらへと走って来る。満面の笑みだ。


その向こうに、ぼろぼろのハクインが立っていた。


こんな風に生きられるのなら、あの時、幼いシユを抱いて、王府に戻りはしなかった。


「シユを連れて行っても良いか?」

ギヨウの問いに、ハクインは泣きそうになる。ハクインは、シユをちらっと見た。


「なぜ訊くんだ。アンタが迎えに来るまで、の約束だろ」


ギヨウは少し考え、答えた。

「…そうだったな」

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