第19話 王家の血

大きくなったな。

男の口元に、薄らと笑みが浮かんだ。


「地下牢へ連れて行きます」

「いや、檻に入れて、ここへ置け」


牢の看守たちは、扱いが荒い。傷でもつけたら、面倒なことになる。


「お前は、シユだろう?」

シユの体が、ピクリと反応した。


「塩の密売は重罪だ。運搬に携わっただけでもだ。事の重大さを分かっているか?」


分かっていないようだ。


シユの大きな目は、不思議なものでも見るかのように、男へと向けられている。


「そのような不躾な眼差しで、私を見るのは、お前くらいなものだ。母は側室だが、王家の遠縁の家柄でな。実際は、ヨウより王家の血が濃い。だから、このような瞳の色だ」


ギケイは、ギヨウ不在のこの時、シユとの交流を楽しんでいた。


この可愛い生き物はなんだ。後宮の女や小姓とは、まるで違う。


「檻は要らぬ。縄を解いてやれ。暴れたら、後でヨウに罰を与える。あの傷だらけの背に、新しい傷を重ねてやろう」


シユは、ポカンとしている。

まさか、見たことがないのか。


「ここへ来い」

ギケイはシユを、机の前に座らせる。机上に広げられているのは、大きな地図だ。


「お前は今どこにいる?」

シユは、しばらく地図を見ていたが、諦め、首を振った。


「王都はここだ。ヨウは一昨日はここ、昨日はここ」


ギヨウと同じ、節の高い指先が、地図の上をなぞっていく。


ギケイは、しばらく沈黙したのち、言った。

「そして今は、お前の後ろにいる」

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