第15話 噛みつく

王都の中心部に、その屋敷はあった。ゴフが営んでいた施薬院と、裏で繋がっている。


ギヨウが屋敷に入ると、護衛の男が、事の顛末を説明した。


「怪我はないか?」

護衛の右袖は、破れている。


「ありません。私のせいです。シユを責めないでください」


無理に捕まえようとしたのが良くなかったとしても、まさか護衛に剣を向けるとは。


シユが為す全てのことは、自分に責任があると、ギヨウは考えている。


だから、シユが何をしても、シユに対して、怒りを感じたことはない。だが、今日は。


中廊下を抜け、突き当たりの一室へと足を踏み入れる。中には誰もいない。


右奥にある大きな戸棚まで来て、一番下の、両開きの扉を開けた。


暗がりの中、シユが体を丸めて座っている。出会った時のように。


「こんな真似はもうするな」

腕を掴んで、無理やりシユを引き摺り出し、抱き上げる。


抵抗すると思いきや、不気味なほど素直だ。疲れたのだろうか。


不思議なことに、先程までの腹立たしさは消え去っていた。


この顔を見るといつもそうだ。歳を取るにつれ、母親に似て来ている。


シェンリュ。貴方にまた会いたい。ずっとそう思って生きて来た。


でも今、再び目の前にいるようだ。これは夢まぼろしなのか。


「夕飯を屋敷に運ばせ…」

ギヨウの言葉は途切れた。


首の付け根あたりに、容赦なくシユの歯が食い込んでいる。


ギヨウは、一気に現実へと引き戻された。

シユめ、やってくれたな。

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