第13話 手と手が
シユは一人で、山に来ていた。昔、ゴフと一緒によく来た山だ。
一人と言っても、見えない形で、護衛が張り付いているのは知っている。
ハクインと来る時はつかない。ハクインが護衛みたいなもの、だからだろう。
今日は夕方、街の酒楼に行くから、必要な草花を採取したら、すぐ下山するつもりだ。
ゴフはギヨウの母方の祖父で、生前、国一番の名医と謳われていた。
『シユ。聞いておくれ。わしの亡き後は、お前さんがギヨウを診てくれぬか。
王都にいる医師を信用しないわけではない。だが、毒盛りの心配は、この先も常にある。
あやつ一人を助ければ、後はあやつがこの国を守るから、大勢が助かる。
ギヨウには、お前さんしかおらん。シユよ。お願いだ』
山に入ると、つい時間を忘れる。シユは籠を背負うと、来た道を足早に戻った。
今日は酒楼で何があるのだろう。
夕飯を食べるだけ?
王都の目抜き通りを少し歩くと、ギヨウを直ぐに見つけた。
墨色の深衣に、腰には大剣を佩いている。長い髪は、銀の髪留めで纏められていた。
睫毛で翳る目には、感情がない。口は結ばれ、近寄り難い雰囲気だ。
ギヨウに向かって歩き出そうとした瞬間、一挺の輿が、ギヨウの前で止まった。
中から、白くて細い女人の手が差し出される。ギヨウの手が、女の手を下から支えた。
それを見たところで、シユは踵を返した。全速力で走る。
息が切れ、心臓が痛くてどうにかなってしまいそうなほど、シユは走り続けた。
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