第9話 勝負の行方

「オウエンめ」

ギヨウが珍しく、笑っている。


突如、ギヨウの愛馬で登場したオウエンに、皆、拍手喝采だった。


「これで拭け」

ギヨウはシユを見て、懐から手巾を差し出した。シユは受け取ると、顔や髪を雑に拭う。


何かが起きたことは明白だったが、ギヨウは何も聞かなかった。


シユの口を割らせるのは、なかなかに骨の折れる作業だからだ。


さて、どの馬に乗るべきか。


ヨモギではなく、別の馬を選ぼうとしているギヨウを見て、シユは慌てて厩舎へ向かう。


待っていると、少しして、シユが一頭の馬を連れて外へ出て来た。


「お前が一番、私に手厳しいな」

ギヨウは微笑み、呟いた。


その若馬は、まだ名前を付けていない新馬だ。足が早く、今日は出番がなかった。


「まぁいい。貸せ」

ギヨウは、納得したように言った。


ギヨウが陣幕へ入ると、今日一番の歓声が沸き起こった。


滅多に目にすることの出来ない、軍の頂点に君臨するの男の騎馬姿だ。


シユも近くの木によじ登り、木の上から、中の様子を伺う。


馬が走り出すと、そのあまりの速さに誰もが言葉を失い、場内は静まり返った。


一投目と二投目は、的に命中した。三投目も間を開けず、的へと吸い込まれていく。


だが矢を放った瞬間、ほんの少しだけ、向かい風が吹いているのに、シユは気づいた。


木の葉が立てる微かな音は、やがて、会場を覆い尽くす感嘆の声にかき消された。



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