第6話 擦り傷

シユは、正室の扉を少し開けて、中の様子を伺う。


気づいたリゥユエが、早速やって来た。

「何してるの?」


夜の時間帯は、リゥユエが、ギヨウのそばにいることが多い。


「夜着がはだけてる」

そう言って、リゥユエは、シユの襟元を正した。


シユは中に入り、正室の棚に置いている、自分の給金箱を取り出した。


ギヨウはそれを見て、シユを呼び、自分の膝の上に座らせる。


シユは、給金箱を机の上に置き、蓋を開けて、銭袋を取り出した。


花の刺繍が施された、可愛らしい巾着袋で、ギヨウがくれたものだ。


ギヨウが袖机の引き出しを開けると、引き出しの中の五銖銭を、袋に詰めて行く。


シユの給金は、必要な時に必要な分を、自ら給金箱に入れることで、支払われる。


ギヨウは、シユの頬に張り付いた髪を、指ですくい、耳にかけた。


その時ふと、右頬に擦り傷ができていることに気が付く。


金を必要としているのは、ハクインか。昔から、シユに無体を働くのは、ハクインだ。


それにしても、結構な額だ。シユの頭を撫でながら、ギヨウは思いを巡らせる。


泣いて嫌がるシユに、必死で言葉を教え、心を開かせたのが、ハクインだった。


以降、シユはハクインに懐き、ハクインの背を追いかけている。


ギヨウは、別の引き出しから、塗り薬を取り出した。


顔の傷に塗ろうとすると、それに気付いたシユが、させまいとギヨウの腕を掴む。


ギヨウは、背後からシユの両手首を押さえて、無理やり薬を塗り込んだ。

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