第5話 金欠の貴公子
湯殿を出たところで、シユは、ハクインに捕まった。
逃げようとしたのが行けなかった。一瞬で、ハクインの機嫌を損ねたのが分かる。
胸ぐらを掴まれ、湯殿の外壁に、叩きつけられる。
「全部、あの男のせいだろ」
ハクインは、ギヨウのことを陰でそう呼ぶ。
貴族出身のハクインは、王家や新興の地主勢を嫌っている。
王家の犬に成り下がるつもりはない。それがハクインの口癖だ。
シユは、ハクインが怒っているのは分かったが、それ以上のことは、分からなかった。
「…抜け道の情報を売ったんだ」
しばらくして、ハクインは重い口を開いた。
「でも、使えなくなったから、金を返せと言われて困ってる」
あの抜け道は小さい頃、ギヨウに抱っこされ、何度か通った。
記憶は朧げだったが、行ってみたらまだあっったので、ハクインに教えたのだ。
シユは、驚いていた。抜け道の情報がお金になるとは、つゆにも思わず。
単純に、門限破りをした、とだけ思っていた。
「金が必要なんだ。貸してくれるか?」
シユは、こくりと頷いた。
「あの男がくれたものでもいい。質で売れば金になる」
シユは、ギヨウがくれた虫籠を思い浮かべていた。もらって一番嬉しかったものだ。
シユの視線が不意に、篝火の周りを飛んでいる蛾を追いかける。
それを見て、ハクインは付け足した。
「宝石のついた装飾品とか、な」
ハクインの口角が上がっているのを見て、シユは悔しそうに唇を噛んだ。
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