第3話 鼻血の理由

話は戻り、妓楼からの帰り道。ハクインとシユは、枯れ井戸の底にいた。


ここを上がれば、もう王府の中だ。


警備の都合上、王府は、門限が厳格に定められていて、破ると罰せられる。


この秘密の抜け道をシユが教えてくれた時、さすがは王府育ちと、ハクインは感謝した。


王府内の兵舎での新生活は、まるで牢獄にいるようで、この抜け道は救いだ。


ハクインが、内側にかかる梯子に手を掛けた、その時だった。


後ろからついて来ていたシユが、ハクインの背に、顔面から激突した。


衝撃で、ハクインは、火のついた木切れを手から落としてしまう。


火はすぐ消えて、井戸の底は、真っ暗になった。


「うっ」

シユが小さくうめいた。ハクインは察して、懐から手拭いを出す。


だが、シユのいる方に手を伸ばそうとすると、パシッと手をはたかれた。


「なんで叩く?!」

ハクインの怒声が響き渡る。シユが、ビクッと体を縮こまらせたのが分かった。


チッと舌打ちし、ハクインは梯子に向き直り、登って行く。


しかし、井戸の天辺から頭を出したところで、身動きが取れなくなった。


首筋に鋭利なものが、押し付けられている。全身から、汗が吹き出した。


相手が本気なら、空気を切るように首が飛んでいた。


ハクインには分かる。この者は最上位の剣使いだ。まさか、テイカか?


「抵抗はするな」

その瞬間、聞き慣れた声が後ろからして、ハクインは目を見開いた。


兄、ハクエイの声だ。秘密の抜け道をバラした人間がいる!


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