第2話 世話の焼ける世話係
「んっ」
長い指に顎をすくわれ、シユは顔を上げた。
男は、慣れた手つきで、シユの鼻や口の周りに付いた血を拭い取っていく。
風もなく、静かな夜だった。男の耳には、シユの息づかいだけが、聞こえている。
「ほら、立て」
シユは立ち上がり、目の前に広げられた夜着の袖に腕を通した。
と、その時、突然、事切れたかのように、シユの体がぐらりと傾く。
咄嗟に、男の片腕がシユの背に回り、シユを力強く抱きかかえた。
王府の東殿の正室。室内は品の良い調度品で纏められ、落ち着いた雰囲気だ。
先ほど、シユをここへ連れて来たのは、ハクインの兄のハクエイだった。
ハクエイは、ギヨウの前にシユを跪かせ、簡潔に状況報告をした。
ギヨウはシユを一目見て、僅かに眉根を寄せた。なぜ、こんなに汚くなる?
無言で立ち上がると、部屋の隅に置かれていた椅子を取り、シユの傍に置いた。
節の高い指先が、トントンと背凭れの上部を叩く。だが、シユは動かなかった。
ギヨウは小さくため息をつき、言った。
「座れ」
シユの大きな黒目が、ギヨウをじーっと見つめる。責めるような眼差しだ。
シユは、今夜の出来事ついて、説明を求めているのだった。
だが、早くシユを清めて、服を替えさせたいだけのギヨウは、取り合わない。
「代わりにハクエイから罰を受けるか?」
思いもかけないギヨウの言葉に、小さく息を呑む。
シユはそれ以上、抵抗せず、くるりと体を反転して、椅子に座った。
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