【BL】黄花竜牙1

@F_Y

第1話 贈りもの

ハクインは、最後の酒を一息で呷ると、窓の外に視線をやった。


眼下には川が流れていて、軒を連ねる妓楼の灯りが、川面に映り込んでいる。


暗くなり、人通りが多くなって来た。花街が賑わうのは、これからの時間だ。


「帰らないで」

ハクインの逞しい胸元に、芸妓が頬を寄せる。


「また来る」

ハクインは優しく答えて、街で買った簪を、懐から取り出した。


彫られている花の名前は、玉蘭というらしい。シユがこれを選んだ。


鼻水、鼻づまりに効く。生薬としての効能まで聞かされたのは、興醒めだったが。


あいつはどこ行った?


視界の左、シユは、橋の欄干から身を乗り出して、川を覗き込んでいる。


次は絶対に連れて来ない。心に誓い、ハクインは妓楼を出て、橋へと向かった。


最近、シユは、あの男が用意した服ではなく、自分のお下がりを着ている。


先日、実家に連れて行った時に、捨てるのが惜しいと、母がシユに与えたのだ。


確かにシユは孤児だ。だが、もう子供ではないし、第一、貧しくもない。


真後ろに立っても、シユは気づかず、無防備な背を晒している。


栄養は足りているはずなのに、痩せ過ぎで、骨と皮だ。


だが、体の細さの割に、昔から、尻だけは肉付きが良い。


その尻の片方を思い切りつねると、驚いたシユが、川に落ちそうになった。


ハクインは咄嗟に、一つに束ねられたシユの長い髪を掴み、落ちるのを食い止める。


「帰るぞ」

橋の下で、何かがぽちゃんと跳ねる音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る