艦隊総力戦「星の光はすべて敵」

■ 星の光はすべて敵



ハイフォン彗星の尾部付近。


太平洋戦争で空母機動部隊が活躍したからと言って、大艦巨砲主義が特権者戦争後の時代においても滅びっぱなしと考えるのは軽率だ。


宇宙は広い。航続距離の短い航空戦力を前面に押し立てたところで何の役にも立たないばかりか、足の速い母艦に追いすがるために大出力が必要だ。

そんな仕様を満たす機体に開発費を投じるよりは、巡洋艦を揃えた方が有意義だ。


では、航空機は無用になったかと言えば、小回りが利き、数を揃えられる戦術兵器として現役どころか、ますます需要が見込まれる。

ブレーメン上陸作戦で戦闘純文学兵器がセミ・アクティブホーミングに特化しているという限界が示されたように、アウトレンジの打撃力が戦局を握っている。


「チャタヌーガは中央へ。ヴィックスバーグとマナサスギャップは左右へ展開!」


シアの指示によって戦艦三隻が横形陣を取る。その後ろに空母レンジャーが続く。要は前衛に火力を集中させ、機動部隊の露払いをさせる陣形だ。


そして、はるかに先行するゲティスバーグとサンダーソニア。散兵として、戦闘純文学による幻惑迷彩を隠れ蓑に用いて早期警戒を怠らない。

艦隊は難しい対応を迫られている。グレイスの行方が判らず、偽グレ、偽ソニまで現れ、混迷を極めた。


「『恥を知れ、大逆賊』ですって!」


ソニアが、怒りに体を震わせる。中央諸世界政府はシア達が空母レンジャーに収容したマウントウェザーの避難民受け入れを拒否した。


「予想はしてたけどね……」 シアはできるだけ冷静さを装った。万一、グレイスをこの手で討つ羽目になろうと、わだかまりだけは解消しておきたい。

「お母さん……」 

「みなまで言わないで! あなただけでも……」 


声を詰まらせたシアはLEDをランダムに明滅させた。頭を撫でてやりたい。血の通う腕が欲しい。

、 

「お母さん……もう充分よ。このまま、クミちゃん達と暗黒宇宙へ……」

「グレイスを置いてはいけないわ!」

「みんな死んでしまうわ! 戦いはもうたくさん」

「あの子は、未来から立ち昇る暗い息吹を吹き飛ばす者アストラルグレイスなの! わすれたの?」


そうだ。特権者対する人類最初の大攻勢『星の光アストラルグレイス』作戦の立役者。最後の希望であった彼女を救わずして、どんな未来図も描けない。


ソニアは理屈としてわかってはいるものの、リスクの大きさに首を縦に振れない。思わず全滅の憂き目を想像してしまう。ましてや、無関係な難民を巻き込むわけにはいかなかった。


「だめ! やっぱりあたし、戦えない」


サンダーソニア号は後退し、シア機動部隊本隊への合流を図る。



「八時の方向より高エネルギー反応、急速接近!」 艦艇防御システムが奇襲を警告する。


翼が破壊される寸前に推進力をシールドジェネレーターへ回す。舳から傘状の結界を展開し、敵弾を受け流す。

しかし、逃げようとした方向からビームが飛んでくる。こちらの回避行動を読まれている。


「気合を入れて、ソニア!」


危険をおかしてゲティスバーグがサンダーソニアの前に出る。X−37を改造した小さな機体だが、シアの術式で火力も防御もオーランティアカ級に負けない。


シャトルの周辺とサンダーソニアの間にシールドの橋が架かった。艦砲射撃をすべてコの字型にはね返す。

お腹いっぱい喰らった威嚇は、倍返ししてやる。シアは発射地点と敵の数をほぼ特定していた。


むこうもこちらの位置を確定しているだろう。猶予はない。


ソニアは考え続けて疲れ果て、威嚇射撃をあしらう気力もない。それにグレイスがどうなろうと関係なかった。一度は自分を討ちに来た女だ。いがみ合いはもう沢山だ。三千世界最強の艦と謳われた自分が戦争いくさその物と闘わねばならぬ。


シアはやる気のないサンダーソニアを下げ、チャタヌーガに前衛を委ねた。


射線の揃った反撃が来た。三条のビームがシールドを削る。敵は本腰を入れてきたようす。


元モンタナ級戦艦が五十口径量子砲を斉射した。そのまま艦隊は密集し、防御フィールドを共有する。

出力の一部を最低限の防御に回し、攻撃力を稼ごうとした。輪形陣は標的になりやすいが、敵が砲撃を集中すればするほど、脇が甘くなる。


彗星の吐き出す塵をも貫く敵弾はチャタヌーガとヴィックスバーグの中間で撃墜された。個艦防御シールドによって衝撃が分散されるものの、デブリが舞い散り、砲撃で熱せられたガスが艦隊を翻弄する。

しかし、敵弾の直撃は免れた。弾道を一点に誘導することで敵の火力や射撃練度の把握に成功した。


たなびく尾に流される様に熱波が消えていく。


ゲティスバーグがパッシブスキャナーで走査すると、濃密なガス雲の影にオーランティアカ級戦艦が待ち構えているのが判明した。

超長射程の砲撃が得意なアストラルグレイス号がサンダーソニアの前にいる。その背後に艦載機を満載したワロップが数隻。


こちらが攻撃に出た際に、短ワープでガスを飛び越える腹積もりか。


ゲティスバーグから各艦へシールド解除の指示が飛ぶ。シアはあの二隻を、どうひねり潰そうか検討する。


「ファランクス体形とは、ずいぶん舐めたまねをしてくれるわね」


敵が近距離戦闘を前提に航空戦力を充実させているのは事実だが、それも含めて対策済みだ。こちらの空母はたった二隻。

防空力の薄さを勘案し、互いの射程やガス密度も計算の上で、序盤で戦艦を潰そうとした点は賞賛する。

だが、あちらがグレイス号を突撃銃に見立てて航空機を前倒しするのならまだしも、こんな稚拙な戦略ではお話にならない。


「余裕余裕。アッシリアの戦いで行くわ」 ゲティスバーグが攻撃開始を命じた。


「停戦すればいいじゃない!」


いきなりサンダーソニア号が行く手を塞いだ。


「勝ち戦なんでしょ?」


姉と関わりたくない本音も加わってサンダーソニアは強引にゲティスバーグの行く手を阻んだ。


「陣形を崩さないで!」


牽制しあう二隻は格好の標的となった。高エネルギーの束が直撃した。爆散と閃光が宇宙を焦がす。


「え?」


シアは自分の目を疑った。シャトルはかすり傷一つ負ってない。考える間もなく衝撃が続けざまに起こる。


どこに隠れていたのか、廉価版ワロップが身体を張って敵弾を撃墜している。


懸命に弾幕を張っていたが、リロードした隙を突かれた


「あぶない!」


盾になろうとしたサンダーソニアの眼前でワロップが裂けた。残骸が集中砲火に打ち砕かれた。


ソニアは声にならない声をあげ、戦闘指揮所の床にうずくまった。

ゲティスバーグは回避行動を取りながら、艦隊を立て直すのに精いっぱいで、その間にもヴィックスバーグが傷ついていく。


ソニアは自分の不甲斐なさに沈み込み、ワロップの仇を討つ怒りすらわかない。ふらふらと軌道が定まらないサンダーソニアを陣営の綻びと見抜いたのか、敵の砲撃は防戦一方の戦艦三隻を分断しようと、楔を穿つように炸裂する。


左舷砲塔をやられて、回転を始めたマナサスギャップの影に、後退してきたサンダーソニアが入る。

戦況モニターの一角を画像拡大し、攻勢を強めるオーランティアカ級二隻の連携ぶりを見てソニアは愕然とした。姉はもう敵の一員なのだ。厳しい現実に押しつぶされそうだ。


「わたし、もうダメ……」


潤んだ視界に計器パネルの灯がぼやけ、走馬灯を形づくる。我が家の庭で風に吹かれながら姉と他愛ない恋バナをしたり、惑星ホールドミーを見おろす艦の中から、あやしげな客間をのぞき見したり、やりたい放題やってきた。


「やっぱり、わたし戦えない。お姉ちゃんにはごめんさないと言えなかった、許してとも言えなかった……」


サンダーソニアがスラスターを逆噴射して宇宙空間に静止する。格好の餌食だとばかりに、照準が二つ三つとロックオンする。彼女を護ろうと、チャタヌーガとヴィックスバーグが急接近する。

がら空きになった前衛めがけて、戦線を後退させてやろうと砲撃が集中する。


「……同じ家族が戦うなんて!」


チャタヌーガの量子ミサイルランチャーに被弾。ガス気流帯に爆炎があがる。ぐらついた戦艦の射線をかいくぐり、アストラルグレイスが加速して間合いを詰める。


「どちらかが死ななきゃいけないなんて……」


射撃統制装置を凍結したサンダーソニアを中心に、艦隊は輪形陣を強いられる。こんな劣勢の時に一点突破されたら、ひとたまりもない。


「殺すぐらいなら……殺される方がいい」


ヴィックスバーグがサンダーソニアの前に滑り込む。防御フィールドの表面に火球がつぎつぎ膨らむ。


衝撃を吸収しきれず、バリンと防壁が割れる。それでも、突破してくる敵弾を機銃でバリバリ迎えうつヴィックスバーグ。撃ち漏らしが艦尾に被弾した。


「しっかりして、ソニア!」


モニタの中でシアがアーモンドの様な目を吊り上げる。


「このままではみんなやられてしまうわ! ワロップは何のために死んだの? カムチャッカ・リリーは誰のために玉砕したの?」  


エルフ耳を角のようにそばだてる。


「メグはマキに告ったばかりだったの……まだ、キスしてとも言ってない! 抱いてとも言ってない! 愛してるとも言ってない! それなのに死んだ」


満身創痍のチャタヌーガが中破したヴィックスバーグを押しのける。副砲に量子散弾を装填し、間際で敵弾を食い止める。


「彼女だって恋をしたかったはずよーーー!」


戦況を映し出すモニターがソニアを照らす。


「死んで花実は咲かないわ。人は殺すために闘ってきた。戦争を駆逐したところで、理由をつけてまた争うよ」


流れ弾がサンダーソニアの艦橋すれすれにさく裂。天井から壊れたパネルが降り注ぐ。


「いいえ、人は殺戮を重ねる度に学んできたわ。封建制度の廃止、奴隷解放、冷戦の終結、テロリズム対策、全滅を免れた命が平和につながる階梯を踏んでいく。だから、わたし達はここで負けるわけにはいかないのよ!」


画面を遮るノイズに負けまいと、シアが声を荒げる。


「カムチャッカ・リリーだけじゃないわ! チャタヌーガも、ヴィックスバーグも、マナサスギャップも平和をつなぐ戦いに、命を捧げてるのよ!」


収束された大出力ビームが向かってくる。


「未来に希望をつなぐための礎になったのよ! その為の命よ!」 


チャタヌーガがダメージに抗しきれず爆散する。


「わたしたちが負けたら、チャタヌーガかのじょは何のために死んだの? 」


意に介さず、シアの説教が続く。

ずたぼろのヴィックスバーグが、爆風からサンダーソニアを護る盾となる。


「あたしたちは何が何でも今日を生き延びなきゃいけないのよ!」


業を煮やしたゲティスバーグが貨物ベイを開き、中性子弾頭ミサイルをサンダーソニアに向ける。


「戦わないというのなら!」


死ぬも地獄、生きるも地獄、ソニアはうつむいたままメインコンソールを濡らす。


「ごぉ! ……よん! ……さん」


粗暴な母親が聞き分けのない子どもを脅すように、シアが秒読みをはじめた。


「……」


長く短い逡巡のあと、ソニアは、吹っ切れたように目を輝かせ、正面を見据える。



「うっさいわねぇ! あたしをそこまで追い詰めるのなら、やってやろうじゃん!」


ソニアは両こぶしを固めると、コンソールの赤いボタンを保護パネルごと叩き潰した!



「サンダーソニア、最・大・戦・速!」



鶴の一声で戦闘指揮所の計器類が覚醒する。さまざまな記号や図式がドミノ倒しのように殺気立つ。

艦隊配置図上のアイコンすべてに「最大戦速」の文字が灯る。



「ダメージ・ユニット、エリクサー!」


ソニアの眼前にステータスウインドウが開き、チャタヌーガのスペックが映る





━━━━ DAMEGED UNIT STATUS WINDOW(Sorted ↓) 


ゲティスバーグ改級航空戦艦 チャタヌーガ(BB−71)【大破】


全長  七百メートル

    基準排水量十万トン

  

主砲 五十口径四十六サンチ量子砲 三連装備十二門

副砲 五十四口径十二センチ・オットーメララ多目的量子速射砲 連装十基二十門


サジタリウス量子巡航ミサイル

三連奏短量子魚雷、量子爆雷


量子確率変動妨害装置 戦闘純文学射撃統制システム


艦載機 GF−22NS アタック・トムキャット 二十四機



同型艦:ヴィックスバーグ(BB−72)、マナサスギャップ(BB−73)


━━━━



大破のステータスが、一瞬で【健在】に変わる。



サンダーソニアの超生産能力が本気を出した。先ほどまで炎上していた戦艦がナノマシンによってたちまち修復され、嘘のように鎮火する。

栗色の髪を揺らし、ソニアが指揮者のように腕を振り上げる。


「シップ・オブ・ザ・ライーーーーーーーーーーン!」


サンダーソニアを筆頭に三隻の戦艦が縦列陣を組む。


ソニアが見えない鞭をふるうと、艦隊が波打つ。同時に各艦が全砲門を斉射。弾道が絡み合って、四方八方からくる敵弾を殲滅する。


彼女は僚艦をフィギュアスケート選手の手足みたいに、しなやかに使役する。


「逃げない事、戦う事、負けない事、それがグレイス姉ちゃんと向き合う事、人生を共にあゆむことなのよ」


メインスラスターに点火、サンダーソニアは艦隊を引き連れて、一気にガス雲を飛び越える。アストラルグレイス号の真上で姿勢を建て直し、急降下に入る。



「ギガ・サーモバリック……」


戦艦三隻が自転しながら弾幕を張る。アストラルグレイスの迎撃ミサイルが瞬時にデブリと化す。


「ブレイクーーーーッ!」


がら空きになった敵の艦橋めがけて、サンダーソニアが艦首の鋭角ラムを突き立てる。思慕や憎悪や悲哀や歓喜が、沈み込む刃先を後押しする。

プランク時間よりも短い周期で振動するブレードが、ライブシップの細胞をズタズタに引き裂く。


姉の船体を突き抜ける間、ソニアは歯を食いしばってあふれる想いを振り払った。


両断されたライブシップのあちこちから稲妻がほとばしる。


「ごふっ!」 火の手が回った艦橋でスコーリアが吐血する。「馬鹿な……ラ、ラノベの主人公は……ぜったい負けな……」


膨れ上がる火球を盾にしてサンダーソニアは次の獲物に向かった。




「敵、量産型ライブシップ群、約二十万隻。どういうことなの、これ?」


ゲティスバーグの量子レーダーが彗星中心核の地平線上に雲霞の如く敵影を捉えた。あきらかに当初より敵は勢いを増している。

ライブシップそのものを建造する生体戦艦製造工廠ライブフォートレスというべき存在が背後に控えているとしか思えない。


「敵機襲来、三時方向に七万。対艦爆装済みよ」


サンダーソニアがヨーヨーを繰り出すように空母レンジャーを突撃させた。


「レンジャー・アタックエアクラフト、レディ! スタンピート!!」


フォレスタル級空母のメインデッキに戦闘機が二列計一六機、アングルドデッキに九機、ぎっしり並んだ状態から、矢継ぎ早に発進していく。

雨あられと降りそそぐ礫のように、敵編隊が突っ込んでくる。剣山を剣山で刺すように双方が会敵する。


「アブソリュート・イレイザー!」


F−22アタック・トムキャットが放った量子ホーミングミサイルが縦横無尽に飛翔し、標的を余すところなく打ち砕く。


イルカのようにゆうゆうと爆風を跳び越えるゲティスバーグ。サンダーソニア、艦隊が後に続く。

レンジャーの十倍はあろうかという球状艦が押し寄せる。剥きだしの部品が並んだ表面にミサイルがずらりと屹立する。


「ひるむな! ブロード・ディバイダー!」


シアが命じると、サンダーソニアの甲板からボーイングAL−1が射出される。徒党を組んだレーザー攻撃機が敵艦の装甲をランチャーごと焼く。


卵を砕くようにAL−1は敵艦を突っ切り、返す刀で背後の艦をびしばしとへし折っていく。


「囲まれたわ! 敵空母艦載機群、推定九千万!」


索敵結果をシアが転送する。ぎらつく敵影がソニアの網膜に突き刺さる。

彼女はすっくと戦闘指揮所にたたずむと、抱き寄せるように両手を広げ、叫んだ。


「オールユア・ニード・バーサーク」


右腕を大きく左右に振る。「フロム! ホワール、トゥ! ホワール!」


消火栓が根元から折れたようにビームの怒涛が艦隊からあふれ出る。散水するように、射線が時計回りに一回転。

ワンテンポおくれて、宇宙がオレンジ色に泡立っていく。


「命をつなぐ事、戦い続ける事、未来に希望をつなぐこと! 勝って勝って勝ち残ること。それが。恒久平和の道なのよー」


サンダーソニアが量子魚雷を超生産しまくり、分厚い敵陣を端から消し飛ばす。


「そうよ、カムチャッカリリーの命、リアル地球人の命、フランクマン帝国民の命、いしずえになった命を束ねて、明日を拓く」


シアが、シップ・オブ・ザ・ラインをぶん回し、敵艦隊をごぼう抜きするようになぎ倒していく。


「「だから、まとめて、死んで頂戴ーーーーー」」



アジの群れのごとく大量のライブシップが陽を浴びてきらめいている。その渦のごとき艦隊の中心にライブ・フォートレスが遊弋している。


シア艦隊は敵の潮流を戦斧で断ち割るように沈めていく。本陣にたどり着いた瞬間、暗黒の世界が梅雨明けの空のように明るく晴れあがった。


コンサイス星系の等級が二つほど上がった。戦後十年もの間、地球からはその様に観測されたと記録に残っている。


ぺんぺん草も生えぬとはまさにこのことである。シア母娘が無双した後には、原子一つ残っていなかった。



「十二時の方向に大規模な重力波探知!」 


ゲティスバーグが、オーランティアカ級のワープアウトを確認。


「こっちもよ! 六時方向、識別結果サンダーソニア!」


ソニアが息をつく間もなく、別の敵影を検出した。「三時方向にも同型艦、高速接近! 高エネルギー反応」


暴走状態スタンピート まさか自爆特攻? ソニア、あれを使うわ」


「スーパー・キャリホルニウム、ミッサーーーイル!」


ゲティスバーグ改級戦艦から三方向に直径十メートルサイズの巨弾が連射される。


敵艦はつぎつぎに撃ち込まれる核の炎を何食わぬ顔で突破してくる。


戦闘指揮所では、ソニアは歌舞伎役者が大見得を切るようなポーズで虚空を支えている。


シア艦隊は反物質フィールドを盾のように展開して三方向にバリケードを築いている。


敵オーランティアカ級は舳をめり込ませようとフィールドを押している。



世界を記述する力ラノベのちから、見くびるな!」



偽サンダーソニアの舳で白衣を翻す、その男はトランジット。腰に、太腿に、両手足首に、連ねた缶ビールのごとくモーダルシフターを巻いている。


「お前は……まさか、今までの猛攻、ライブシップにチートを使ったというの?」


メディアは意外な相手に驚きを隠せない。


「そうだ。戦闘純文学とチートの融合は無敵だ。どうだ? お前らも俺の和蘭人形にならんか?」


白夜大陸のカフェで出会った時と同じ、下卑た笑いがメディアの耳に障った。


くすっとシアが笑う。「あなたもメタフィクションの罠にかかったのね……あわれなオトコ」

「ワケのわからぬ事を……」


意表を突かれたドクターをからかいと憐れみに満ちた目で見返すシア。


「あの時の特権者はね……わ・た・し」


絶望が浸透するようにゆっくり狂科学者とチートに死刑を宣告する。世界を記述する力が詐欺師シアの手によって崩れ去ってしまった。



ドクターが何かを口ごもったが、衝撃に打ち消された。


「エクザーション・バズーカ!」


シアが召喚した千メートル級の鉄球が敵艦を背後からうちのめす。べきべきと敵オーランティアカ級の竜骨が折れる。



「フィラ・デル……」 ソニアが万歳した両腕に力を込めて虚空を押し返す。

「フィア……」 シアが術式を唱和する。


「「ボンバー!!!!」」



ゲティスバーグから虹色の光が広がる。フィールドがうちふるえ、敵艦を押し返す。


恐るべしフィラデルフィア・ボンバー。余剰次元をひん曲げて、物理法則をことごとく書き換える魔光が敵艦を打ちのめす。


そのまま、めりめりと艦首に食い込み、装甲がたわみ、めくれ、肋材がむき出しになり、機材が崩れ落ち、砕け、弾ける。

膨張した船殻がいびつにゆがみ、エンジンから背骨っぽいぬめったタービンシャフトが外れ、空回りしつつ、燃料をまき散らし、爆散した。


「ぐわあああああ!」


めくるめく光芒に照らされて、両異世界を滅亡に追い込んだ男は白と黒の線画となり、それすらも浄化されていった。


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