号砲!無軌道強攻装甲戦艦!!
■ 引き渡し交渉
国境線を隔てて、フランクマン帝国とアメリカ戦略創造軍の艦隊が睨みあっている。モニター越しに駆け引きが続いている。
「こちらが徴兵忌避および脱走者の名簿です」 メディアが、リストを送信した。
「作戦局長。入植者たちの間違いではないかね? 彗星は両国の懸け橋だ」 デスバレー総統は友好を前面に押し出す。
「しかしながら、戦闘純文学者達は国外逃亡犯として法の裁きを……」 メディアが、正論を振りかざす。
「厳格な法の適用は私も賛成だよ。しからば、彗星の帰属にも当てはめられよう」 デスバレーは、法治国家を持ち出す。
いきなり、痛い所を突いてくる。だが、局長はデスバレーの刃を押し返した。
「彗星に検察権をお認めになる? では、合同捜査本部の設置を提案しますわ」 メディアが一歩踏み込む。
「残念ながら、我が国に彼女らを罰する根拠がないのだよ。不法入国でかね? すると、彗星は我が方の領土となるが」 総統が反撃する。
「国際的な枠組みとしてです。彗星は犯罪の温床になります」 メディアが搦め手を仕掛ける。
「よい心がけだ。君らで精進したまえ。わが帝国には国家警察という免疫があるのでね」 狼男はするりとかわす。
「では、なぜ、こちらに通報なさったので? まさか、人類圏の自浄力をご心配なられて?」 メディアがチクっと刺す。
「面白いオモチャを見つけたので、君が喜ぶと思ってね」 総統はメディアに視線を投げる。
「お国のご婦人方は掘り出し物がお好きですの? 潜界航行艇がエーテルポケットで発掘した……」
「君こそ、国境線まで大艦隊を繰り出して、急な見合い話でも決まったのかね?」 メディアは総統に詰め寄られる。
「いや……その……」 恋人の冷淡ぶりにメディアが戸惑う。
「メディア君。はっきり言っておこう。これは重大な休戦協定違反なのだよ。まぁ、今回は君の僥倖に免じて、目を瞑ろう」
狼男は、かたわらのエルフ女を、ぐいっと抱き寄せる。「シア君、夜伽の時間だったね」 ←おいっ!
真っ青になるメディア。「これは私からのたむけだ。二人でよろしくやりたまえ」 シアと狼が画面から消える。
「は……は……」 メディアは壊れたラジオのようにわめき始めた。
■ 無軌道強攻装甲艦クローデル
たなびく彗星の尾をどす黒い影が断ち切っている。アメリカ戦略創造軍が誇る本土決戦兵器クローデルである。
そのシルエットは、人間の両肘から先を切り落とし、指先を揃えて重ね合わせた形に近い。
肘にあたる底面には、紙コップに似た大型スラスターが四基ある。手首の部分には、両舷に八基ずつ、反物質フィールド発生器が扇状に並ぶ。
それぞれの先端が青白く明滅して、漆黒の船体を不気味に際立たせている。
戦闘は既に始まっていた。発生器がちらつく度に、彗星の尾が泡立った。
ハイフォンviiiを挟んで反対側では、大きな口をあけた葉巻状の船が、せわしなくビームを吐いている。
「ホーキング怒涛輻射、2ペタワット。来ます!」
褐色肌のネコ目娘が肉球をディスプレイ上に叩きつける。押し当てた部分へ向けて、自艦をあらわす黒いアイコンから太線がのびる。
反物質フィールドが一斉に点滅し、艦の右舷後方で激しい爆発が起こった。続けざまに衝撃が来る。
「迎撃、失敗」 ネコ目が叫ぶ。
クローデルは艦尾のスラスターを点火、コースを左へ大きく変えた。艦は追いすがる爆発の前に立ちふさがった。
左舷に火球がぶつかった。しかし、クローデルはびくともしない。真っ赤な光の盾に護られている。
攻守ともに秀でたクローデルの真骨頂である。この艦が「無軌道強攻装甲艦」に分類されるゆえんだ。
「威力偵察のつもりか? よし、かまわん。とくと、ご覧いただこう!」 コヨーテが啖呵を切る。
今度は右舷の発生器が力強く輝く。前から後ろへ八発。
彗星の尾に、巨大な火球がいくつも連なる。
「γ線輻射、来ます!」 猫娘の瞳がまん丸になる。
「カーブド・エアーだと?!」 コヨーテがモニタ画面に驚く。彗星尾部のガスが密集し、巨大なレンズを造っている。
「弾かれたら、蹴り返せ!」 彼女が、ぐいっとスティックを引くと、クローデル号が機首をもたげる。
スラスターを限界まで吹かして急上昇。
「踏ん張れ! クローデル」 コヨーテがネコ目娘に手を添える。「はいっ」 クローデルは目を輝かせる。
艦底から生じた正方形のフィールドが、迫りくる奔流を叩きかえす!
「六時の方向に大規模な重力波探知!」
「なに?」
クローデル号の真後ろに燐光が凝縮し、小さな機影となった。高速で突撃してくる。
「バースティング・ストレンジャー、間に合うか?」 コヨーテが駿足機動ミサイルを撃つ。
星空にひとまとまりの光点が吸い込まれていく。爆風をもろともせず、敵機が肉迫する。
「反物質バックラー、励起」クローデルが小型盾を展開。上下左右に逃げようとする敵機を、先回りして阻む。
バックラーと敵機が激しくぶつかり合う。
敵機からビームが垂直に振り下ろされる。バックラーが爆散。
「この!」 コヨーテが、左舷発射機から反物質の塊を撃つ。敵影爆散!
すかさず、燐光が集結。新たな敵影が出現。
コヨーテが第二撃を撃とうとするが、できない。
「七番発生器、過熱停止」 クローデルが訴える。
「これだから、ワンオフ物わぁ!」 激昂したコヨーテがキーボードを叩きのめす。焼き付いたのだ。特注品なので替えが利かない。
「予備パーツは?」 クローデルが、応急修理を提案する。
「デッドウエイトだろ〜ぉがぁ!」 重量軽減のために、余計な装備はないのだ。コヨーテが怒りの雄叫びをあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます