初心者のふりをした結果

あーく

初心者のふりをした結果

 カチャカチャ


「あ、あ、くそ、やられる――な〜んて、甘いんだよ!ザコが!」


 カチャカチャ


「いや、そこでガードはありえねーから!魔法撃つよ?魔防じゃないと負けだよ?それ」


 PC画面に説教しながら一人、薄暗い部屋でゲームをしていた。


 突然、相手のキャラが動きを止めた。しばらくすると、画面に「回線が切断されました」の文字が表示された。


 一息ついた。ふと時計を見ると、ちょうど日付が変わったところだった。


「まだ時間あるな。対戦相手探すか」


 俺が今プレイしてる『ルーン・ファイター』は、世界でもプレイ人口が多い大人気のゲームだ。


 攻撃、防御、投げはこれまでの格闘ゲームでもお馴染みだが、さらに魔法攻撃、魔法防御が追加され、より駆け引きが楽しめるようになっている。


 俺は最近、初心者狩りにはまっている。


 きっかけはプロゲーマーの配信だった。初心者のふりをし、後から叩きのめす、というような企画だった。


 すっかりはまってしまった。最初は遊びのつもりだったが、続けていくうちに快感になっていった。自分が強くなったような気になるのだ。


 実際、俺は強かった。『ルーン・ファイター』では、毎月の勝率が発表されるが、俺はそのTOP5%にいた。1000人がプレイしていたら、上位50人の中に入る実力はあった。


「弱い者いじめだ」などという異論は認めない。なぜなら、プロが配信しているからだ。俺を非難するということは、プロを非難するのと同じだ。


 SNSで初心者と偽り、中堅層を狙って申し込む。その人のSNSの発言を見て、上から目線でアドバイスしている人は狙い目だ。


 こういう人は自分は強いと思い込んでいるため、上に立ちたいという欲求が目立つ。こういう人こそ倒し甲斐がある。上には上がいることを俺が教えてやる。


 どうやら対戦相手が見つかったようだ。しかし、今回の相手は初心者のようだ。まあいい。適当に「お互いに高めあいましょう」と言って最終的にボコボコに叩きのめしてやるか。


 相手は操作がおぼつかないようだった。この人を打ちのめすのは少々気が引けるが、これ以上引き下がれない。


 今ので1勝3敗くらいだ。そろそろエンジンをかけるか。ここから俺の快進撃が始まる。


 しかし、相手の様子がおかしい。こちらの攻撃がすべて防御されるのだ。相手は初心者のはず。


「ここで魔法を使えば防御は崩れるはず」


 しかし、渾身の魔法攻撃も防がれた。魔法攻撃は魔法防御でしか防げない。こちらの動きが読まれたのだ。


「ここで魔法が読まれるのはありえねーだろ!」


 そのままペースを崩され、この試合も負けてしまった。


 この動きはもはや初心者ではない。上級者だ。それも、俺より上の――。考えられるのはただ一つ。相手もこちらと同じ初心者狩りに違いない。


 自分の中の何かに火が付いた。許せないという気持ちなのか、闘争心なのかはわからない。


 幸い、再戦を引き受けてくれた。勝ち逃げは許さない。


 暗闇の部屋の中、PCの明りだけがぼんやりと部屋中を映し出している。窓の外は街灯が点滅している。


 深呼吸を一つ。対戦開始の合図。


 相手の出方を伺う。なかなか前に出て来ない。


 遠距離の魔法で様子を見る。それでも前に来ない。


 ジャンプして空中からの攻撃を試みる。これは防がれるが、防御した後は少し動けなくなるので投げが間に合う。投げは防御できない。


 相手は倒れたが、すぐ起き上がる。その起き上がりを狙ってさらに投げを入れる。が、防がれる。投げには投げでしか防げない。完全に読まれていた。


 相手はバックステップで距離をとるが、それを許さない。再び遠距離の魔法でけん制し、ジャンプして空中からの攻撃。


 魔法を防ぐには魔法防御、攻撃を防ぐには普通の防御をする必要があるが、同時に当てればどちらかが当たる。必ず勝てるじゃんけんだ。


 しかし、相手は空中に向かって攻撃を仕掛ける。対空だ。防御ができないとわかり、攻撃で対抗してきた。その攻撃には無敵がついているので、攻撃と魔法の両方を防ぎながら反撃もできる。


 ジャンプ攻撃を使い過ぎたのか、今のはわかりやすかったか。少し控えよう。


 反撃を受け、こちらのキャラは倒れた。その起き上がりに合わせて、相手は距離を詰めてくる。起き上がりに合わせて攻撃を仕掛けるのが上級者。さて、攻撃か、魔法攻撃か、投げか――


 自分が繰り出したのは――防御。


 相手が繰り出したのは――攻撃。


 正解だった。これが読まれるとさらなるコンボが飛んでくるので全力で避けたいところ。


 しまった、ここで投げか。もう少し経ってからと思ったが、タイミングを間違えた。


 再びこちらのキャラが倒れる。問題はその後の起き上がりだ。さて、今度は攻撃か、魔法攻撃か、投げか――


 自分が繰り出したのは――防御。


 相手が繰り出したのは――魔法攻撃。


 またしても完全に読まれた!


「いや、そこで魔法攻撃はありえねーだろ!」


 結局負けてしまい、再戦も断られてしまった。


 心臓が鼓動を打つ。先ほどの試合が脳裏に焼き付いて離れない。


 そう言えば最近負けた記憶がない。そもそも俺はなぜ初心者なんて狩っているのか。


 それはすっかり勝てなくなったからだった。自分が成長している実感がないのだ。


 しかし、さっきの試合を通して感じたことが一つあった。


「もっと強くなりたい――」


 初心者と戦うのはやめると誓い、深い眠りについた。窓からは朝日が差し込んでいた。

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初心者のふりをした結果 あーく @arcsin1203

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