世界を救え! と言うけれど、それより自分が救えない~炎の獅子と氷の竜と~
大月クマ
無理ゲーじゃない!?
ここは、とある日本の片隅――
オレ、マイケル……何とかという名前だったはずだ。
憑依という言葉があうだろうか。
前にいた世界は、この彼女の記憶を元にすると『剣と魔法の世界』というらしい。
そして、元のオレの住んでいた世界に戻るには、
――世界を救え!
ヒントは、ただその一言だけ。
憑依したためか、記憶が段々と上書きされていく。それに合わせて、元の世界にいた時の記憶が薄れていった。だが、『マイケル』であったこと。『世界を救う』ことだけば絶対に忘れてはいけない。
何せ、今の自分が……ウラベ・アキラは控えめに言ってクズだ。
自分自身を嫌っているだけではなく、親も嫌っている。
なんだか自分の鼻も痒いが、それで学校でも一匹狼を気取っていた。
何か救うというための情報収集として、学校にいった。しかし、友達らしいのもいない。しかも周りから腫れ物のように扱われていた。
あまり関わりたくない。
ウラベ・アキラはクラスメイトと距離を取っているし、周りもそうだ。
クラスの担任なる人物は、何とか打ち解け合おうとした記憶がある。しかし、オレが憑依する前に、諦めたようだ。
今は、冷たくあしらっている。
なので、窓際の端っこにひとりでいるか、授業があっても非常階段の片隅で、しょぼくれている。
――何かを救え!
まず自分を救わなくてはいけない気がしてきた。
クズだと思ったのは、人間関係もそうだが頭が悪い。
成績の話だ。
授業にまともに出ていないからかと、オレはこの世界の授業に参加した。周りからは不思議がられたが……というか、この世界。日本の言葉はどうなっているのだ?
ひらがな、カタカナ、漢字……漢字が最悪だ。
今まで勉強していなかったのか、ウラベ・アキラの記憶にはほとんど漢字の記憶がない。
数学はまだ10進数なので、この世界の数字と記号を覚えれば軽いものだ。
ただ問題文を理解できない。漢字の所為で。
あげくに
――この世界の教育は、どうなっているのか!
怒っても仕方がない。無い物は手に入れるしかない。
クラスメイトの話を聞いていると、近々試験があるらしい。
――
ということで、片っ端から教材を探した。
ウチには子供の頃からの、教材は捨てていたようで、書店に行って、有り金をはたいて買い込んできた。
日本語はオレにとっては外国語のようなものだ。
※※※
「カンニングしただろう」
試験結果は上々のはずだった。だが、担任はオレ、ウラベ・アキラが不正をしたと決めつけた。
まあちょっとやり過ぎた感はある。
いきなり、学年トップ10に入り込んだから、疑われても仕方ないのかな?
「――いいえ」
「ウソをつくんじゃない!」
「――いいえ」
「正直に言えば、今なら許す」
「――いいえ」
「貴様ッ!」
ただ成績が上がっただけなのに、理不尽にも、停学2週間。
――救え! ウラベ・アキラを救えなかったじゃないか!
情報収集が出来ない……いや、ウラベ・アキラの記憶には『夜の街』というのが収集にもってこいだとか。
まあオレがいた世界でも、情報収集といえば『夜の街』なのだが……
――この日本の夜の街って、こんなに明るいの!?
魔法ではない何か……錬金術の延長の科学とかで、彩り豊かに輝いている。
「仕事の邪魔だ!」
「ちょっと、なにこの子――」
「ガキの来るところじゃねぇぞ!」
先程から遠巻きに、人々はオレを避けていく。それに罵倒して、どこか行けと厄介払いする。
これでは情報収集なんて出来やしない。
格好が悪いだろうか……いや、外出する着替えがほとんどなかった。仕方がなく、セーラー服で来たわけだが、これが問題か?
「お嬢ちゃん。ちょっといいかな?」
――ヤバい!
ニコニコと人の良さそうな青い制服、
関わるな、ウラベ・アキラの記憶が警告する。
オレはとっさに振りかえって走り出した!
だが、
「暴れない。ちょっとあっちでお話を聞こうか……」
腕を捕まれて逃げられない。
――何だ、こいつ! ホントに人間の力か?
人間の力ではない。
そいつはオレの左手首を掴んでいるが、その握力に痛いぐらいに食い込んできた。
いくらウラベ・アキラという少女になったとはいっても、人の力の強さはわかる。
引きずられるように、青い制服に連れていかれた。
薄暗い路地裏へと――
※※※
ヤバい、逃げろ! と、ウラベ・アキラが警告してくるが、逃げられない。
警官が人気のない場所に、オレを引きずり込む理由があるか?
「今日の飯だ!」
ようやく離した。だが、それは何かの目の前に――
数匹だろうか。先程までのきらびやかな街並みとは全く違う、薄暗い路地。正体ははっきりしない。獣のような、それでいて人のようなもの。
「お嬢ちゃんが悪いんだよ。真夜中にひとりで徘徊しているから。
補導するのは面倒くさくってねぇ」
警官はひとりでなんかブツブツ言っているが、オレはそれどころではない。
地面に叩きつけられて、肩を掴まれた。
オレの肩を掴む指は芋虫みたいに太く、掴む腕にはもじゃもじゃの毛で被われている。そんなのが自分達のほうへ、オレの体を引きずり込む。
「このッ!」
当てずっぽうであるが、頭の上にありそうな、そいつを蹴りつけた。
ウラベ・アキラの体力は確実に
手応えはあった。手が緩んだので、飛び上がる。
「食らえッ!」
魔法の力はこの世界でも使えるのは確認済みだ。控えていたが、人間で無いことは判断した。
火球弾を放ち、オレを自分達のほうへ引きずり込もうとした1匹に命中した。
「グアワワワァー」
全身毛むくじゃらだからか、1匹目はアッという間に火だるまになった。
その明かりが周りを照らし出す。確認すると、人間とも猿ともわからない生き物がそこにいた。現在3匹。
襲いかかるかと思ったが1匹が火だるまになり、首を掻きむしりながら倒れ込む。気管にでも火が回ったのか、息が出来ずにのたうち倒れ込んだ。
そして、動かなくなった。
それを見た他の獣は、身の危険を感じたのだろうか。見た目に反して警戒心が強いようだ。散らばり、闇の中に消えていってしまった。
「待てよ!」
気が付けば、ここに引きずり込んできた警官が、逃げようとしているではないか。
オレよりも、ウラベ・アキラは足が速い。この世界の
重さはスピードで解決できる。
「痛ってぇー……」
「警官さんよ。どういうことか説明してもらおうか!」
――救え! そうすれば試練を終えられる。
あんな人間とも猿ともわからない生き物。ウラベ・アキラの記憶には、この日本にはいない。しかも、この警官は『今日の飯だ!』といっていた。
他にも被害者がいたのであろう。つまり、あれを退治することなのか……いや、そんな簡単な事ではないはずだ。この世界の異変の一片を掴んだだけだ。
「この……グッ!」
「女子高生に向かって、拳銃はないだろ!」
警官は、腰につけた拳銃というものに手を伸ばそうとした。
とっさに、オレは伸ばした手を踏みつけて阻止する。しかし、大人の男の力に、負けてしまった。オレは振り払われてしまった。立ち上がり間合いを取られると、拳銃がこちらに向けられる。
「形勢逆転だな! 魔女っ!!」
「そうかい……」
黒い筒をジッと見つめた。
――燃えろ!
拳銃は熱で真っ赤に染まり出すと、爆発した。中に火薬というものが入っているらしい。
それが爆発したのだ。
「ギャー!」
警官は悲鳴を上げた。しっかりと見ていないが、拳銃を握り締めていた手が血で真っ赤だ。指を吹き飛ばしたかもしれない。
「なに? さっきの悲鳴は!」
「爆発した音が聞こえだぞ」
警官の悲鳴が、拳銃の爆発音が表通りに響いたらしい。
――ヤバい、ヤバい!
オレはその場を急いで立ち去るしかなかった。
厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ。しかし、こいつの飼っていたバケモノが、ヒントかもしれない。
――だからといって、今はどうしようもない!
獅子の試練。
解決方法は深夜の暗闇のように全く、見当が付いていない。
【つづく……かも】
世界を救え! と言うけれど、それより自分が救えない~炎の獅子と氷の竜と~ 大月クマ @smurakam1978
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