第6話 しとしと雨のサンマルコ広場(旅行)


 窓の外はしとしと雨。こんな日はヴェネツィアを思い出す。


 スペインから始まった友人との三人旅は、スイスを一泊で通り過ぎ、ミラノに入った。

 旅もすでに後半に入り、煌びやかなミラノの町や大聖堂ドゥオモなどを駆け足で観光し、翌日にはヴェネツィアへ向かった。


 ヴェネツィアに入る時も出る時も、列車は海を渡る長い橋を通る。この時のワクワク感は今でも覚えている。わかっていた筈なのに「ああ、ヴェネツィアって島だったんだ」と再確認してしまうのだ(笑)


 午前中にヴェネツィア駅に到着し、一番最初に目についた安ホテルにチェックイン。荷物を置いて身軽になった私たちは、水路と迷路の町に繰り出した。

 目指すはサンマルコ広場。そこへ行く途中にあるリアルト橋へ、地図を頼りに向かった。


 ヴェネツィアと言えば水路とゴンドラが名物だ。水上バスもタクシーも充実しているらしいが、私たちの旅はたいてい歩きだ。

 迷うのもまた一興。観光気分で石畳の道を歩いているうちに、わかりやすかった一本道は細くなり、次第に複雑な迷路へと変わっていった。


 途中で休憩がてら昼食をとり、「サンマルコ広場」の道標を頼りに歩いて行くと、急に視界が広がった。


 サンマルコ広場は回廊のある建物に囲まれた四角い広場だ(小広場を足すとL字型)

 気候により水没してしまう時もあり、その様子をニュースでも見たことがあったが、この日は普通の広場だった。


 ただ、サンマルコ広場に着いた辺りから、しとしとと雨が降り出した。


 ナポレオンが「世界一美しい広場」と称賛したサンマルコ広場は、雨に煙っていても美しい。ゴシック風の建物に囲まれる中で、目を引くのが円塔や尖塔がそびえる壮麗な外観を持つサンマルコ寺院と、茶色いとんがり鐘楼。そして私が一番見たかったムーアベルベル人の時計塔。

 青い文字盤に金色の十二星座の浮彫がとても美しい。塔の上部には鐘を突くムーア人の像や、翼を持つライオンの像がある。


 広場を囲む回廊には、カフェや土産物屋が軒を連ねている。私たちも土産物屋をひやかしながら、ドゥカーレ宮殿前の小広場の方へ行き、海を眺めた。


 雨に煙る海。

 並んで繋がれ、波にたゆたうゴンドラ。

 遠くに霞むサンジョルジョ・マッジョーレ島の尖塔。


 まるで中世にタイムトリップしたかのような、とても幻想的な風景だった。

 

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