れおの備忘録 ~思い出・覚えておきたいこと・創作メモなど~

滝野れお

第1話 黒海の思い出(旅行)


 ロシアがウクライナに侵攻して以来、黒海を見に行った時のことをよく思い出す。


 ずいぶん昔だけれど、私の初めての一人旅はトルコのイスタンブールだった。

 別に一人旅がしたかった訳じゃない。私は小心者だし社交的でもない。ただ残念なことに、私が行きたい場所に一緒に行きたいという友人はあまりいなかったのだ。


 それまでの私は友人たちと数か国を旅し、自由旅行の経験もあった。

 だから一人でも、移動のない滞在型なら行けるだろうと思って踏み切った。

 イスタンブールへの航空券とホテルの予約をして旅立ったのは、年末も押し迫った頃だった。


 ブルーモスク、アヤソフィア、トプカプ宮殿、グランドバザール。旧市街と呼ばれる地区にぎゅっと詰まった観光地を、足が棒になるまで歩きまわった。

 滞在中、同じ場所に何度も足を運んだが、だんだんと旧市街だけでは時間を持て余すようになった。


 ガイドブックに、イスタンブールのあるマルマラ海から、ボスポラス海峡を通って黒海まで行ける観光船フェリーがあると書いてあったので、私は良く晴れた日に、シルケジ駅近くの桟橋へと向かった。


 フェリーは、ガラタ橋の近くにある桟橋から、黒海に近いアナドール・カヴァブまで二時間かけてゆっくりと進んだ。海峡の幅は見た感じナイル川と同じくらい。ヨーロッパ側とアジア側にある要塞跡なども見える。


 10時半発のフェリーは12時半にアナドール・カヴァブに到着し、帰りの便は3時発。

 二時間半の自由時間だ。

 魚料理を楽しむ多くの客たちを尻目に、私は屋台のサバサンドを買って山の上の要塞跡を目指した。(私の旅行はいつも貧乏旅行なのです💦)


 要塞跡からの眺めは良くて、黒海が広く見渡せた。見えない対岸に向かって、この先にはロシアがあるんだなとぼんやり思った記憶がある。


 思えば平和なものだったと思う。

 今ではその対岸にあるウクライナとロシアが戦争をしているのだ。

 そう思うと、何とも言えない気持ちになってしまう。


 今はコロナ禍で海外旅行など夢のまた夢だけど、もしも世界が新冷戦時代に突入したらどうなるのだろう? コロナ禍が終わったとしても、呑気に旅行できる日が来るのだろうか? そんなことまで心配になる。


 黒海を見たあの日は、もう遠い。


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